企業ブログの第一人者ロバート・スコーブル氏、Web 2.0ツールの企業利用を語る
2009年2月24日(火)CIO INSIGHT
ブログをはじめとしたWeb 2.0をうたうツールは、企業の中でも一般的なものになってきた。だが大半の企業は、どうやってこれらのツールを効果的に活用したらよいのか、まだあまり理解していない。Web2.0をうたうツールの潜在的な力は何か。企業利用の現状は−。CIO INSIGHTは、企業ブログをメジャーなメディアに押し上げた人物として有名なロバート・スコーブル氏に話を聞いた。(翻訳 : 古村 浩三)
スコーブル氏は、NECの米子会社に勤務後、マイクロソフト(MS)に入社。MSの企業ブログとして大きな人気を獲得した同氏のブログ「Scobleizer」は、同社が渇望していた人間味のある雰囲気の醸成に貢献した。
MS退社後は、ポッドキャスティング(音声番組のダウンロードサービス)のスタートアップ企業であるポッドテックに移籍。現在はマンスエト・ベンチャーズが発行するビジネス雑誌「Fast Company」のWebサイトで、オンラインビデオ製作を手がけている。
CIO INSIGHT:多くの企業ブログが活性化しておらず、あまり効果が上がっていないのはなぜか?
スコーブル氏:報道機関向けのプレスリリースのようなブログが少なくないからだ。確かに、ブログのスタイルはプレスリリースにしては新しく、デザインも親しみやすい。だが肝心の内容は、自社ニュースや製品情報など、プレスリリースと変わりがない。本当に効果があるのは、その市場でのオーソリティー(権威者)という立場に立って情報提供を行うことだ。本当に難しいことであり、私もずっと試行錯誤を続けている。実行できている人は、私の知る限りごく少数しかいない。
その1人が、アドビシステムズのライアン・スチュワート氏だ。氏のブログでは、自社製品のことだけではなく、MSが開発したWebブラウザの画面表示技術「Silverlight」について言及したり、様々なITベンダーのニュースについてコメントしている。このことが継続的な購読につながっている。
CIO INSIGHT:ブログ以外にも人気上昇中の新しいツールがある。これらをうまく活用できている企業は?
スコーブル氏:消費者は今、Twitter(カコミ記事参照)を利用し、使いこなそうとしている。企業でのTwitterの利用も始まっている。靴のオンライン販売を行うザッポス・ドットコムでは、従業員400人が社内コミュニケーションにTwitterを利用している。
1つ面白いエピソードを紹介しよう。私が納税申告サービス大手であるH&Rブロックのオフィスで税金計算に奮闘していたときのこと。私はTwitter上で「今H&Rブロックで税金の計算をしている所だ」と投稿した。時を同じくして、Twitter上のやりとりで同社の社名が使われているのを注意深く探す、1人の女性社員がいたのだ。この社員は、すぐさま私のメッセージに反応し、「もし何か必要なものがあれば、是非私までご連絡下さい」というメッセージを送ってきた。Twitterで会話が成立した瞬間だった。
会話の内容は税金のアドバイスというより、ブランディングの側面が強いものではあった。ただ注目したいのは、同社の社員が業務でTwitterを利用していたという事実だ。この社員は、税金の話をしているあらゆる人たちとつながり、いつでも税金や同社について会話を始められる状態にあったのである。
ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)をはじめとしたコラボレーションツールの社内利用に関して、つい最近シスコシステムズの社員と話をする機会があった。彼らは、コラボレーションツールの使い方を私に尋ねてきた。毎日山のように届く電子メールの情報を有効活用できておらず、打開策を探していたのだ。
私がNECを退社したときに残してきた大量の電子メールは、誰の目にも留まることなく会社が消去した。一緒に働いていた仲間たちは、私がメールの形で持っていた知識を活用することができなかったのだ。メールでは送受信した相手同士しか情報が得られない。情報の関連性も不明確となる。コラボレーションツールを使えば、これらの問題が解決する。あらゆる情報を共有、一元管理することにより、生産性を上げることができるのだ。
ブログはもちろん、Twitterを有効活用する企業も、着実に増加している。新しいツールの出現サイクルは速い。それに比べて、企業で新しいことを容認するプロセスは遅すぎる。
本記事は米国の有力ITメディア「CIO INSIGHT」(提供はZiff Davis Enterprise)の記事を翻訳したものです。ⓒ2008 Ziff Davis Enterprise, Inc.
Twitterとは
「ミニブログ」とも呼ばれる、複数人でメッセージを交換できるサービス。ブログよりも短い“独り言”のようなメッセージを投稿するのが特徴。メッセージは「フォロー」と呼ぶ友人登録をした参加者のみ閲覧可能とすることも、不特定多数に公開することもできる。短い独り言を見て、それに反応したい人が次の独り言をコメントとして残すスタイルで、ゆったりとしたコミュニケーションが進行していく。この点で、常にリアルタイムな反応が求められるインスタントメッセンジャーやチャットとは異なる。
日本でもWeb 2.0ツールの企業利用が続々
Web 2.0ツールを積極活用する国内企業も増えつつある。日産自動車は、2004年9月に同社のコンパクトカー「ティーダ」のプロモーションにブログを活用した。同社社員が飾らない言葉で行うレビューが好評を博し、国内企業ブログの主要な成功例となった。
マツダはマーケティングにTwitterを活用した。2007年5月にロータリーエンジンの40周年記念行事の一環として実施。ユーザーから寄せられた一言コメントを、Twitterで公開した。
現在は消費者との距離が近い、マーケティング分野での活用が目立つWeb2.0ツール。今後は社内におけるコミュニケーション用途での利用事例も増えてくるものと考えられる。 (本誌)
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