景況悪化で今期は減収減益、69万社の顧客と「売る仕組み」が業績を下支え[大塚商会 証券コード4768]
2009年4月14日(火)長橋 賢吾(フューチャーブリッジパートナーズ 代表取締役)
2008年9月のリーマンショックに端を発した金融危機は実体経済に波及し、多くの企業が厳しい経営を余儀なくされている。ここ数年、増収増益を維持してきた大塚商会も例外ではない。2008年12月期決算こそ前年比微減に留まったが、今期(2009年12月期)の業績予想は、営業利益が前年比▲31.7%の大幅減益の見通しだ。そのため予想発表当日の株価は10%以上も急落した。
大塚商会の売る仕組みの強さ
大塚商会のビジネスは、コピー機やそれに付随するトナー、コピー用紙、あるいはコンピュータ製品を、中小企業向や大手企業の事業所向けに販売する極めてシンプルなビジネスだ。営業担当者の力量や人数は重要だが、参入障壁は低く、原則だれでも参入できる。そんな中で、なぜ大塚商会は過去、増収増益を続けてこられたのか? 図1に示す03年12月期以降、従業員一人当たりの売上高、営業利益が大幅に改善している点に注目してほしい。
この原動力が、同社が経営改革を通じて構築した「売るための仕組み」である。具体的には(1)見積り、契約、発送といったバックオフィス機能をすべてセンターに集約した業務プロセス、および(2)自社開発のSPR(Sales Process Reengineering)と呼ぶ顧客管理および営業支援システム、だ。これらによって(1)顧客プロフィールを正確に知る、(2)顧客との取引履歴(過去)を知る、(3)顧客への提案状況(現在)を知る、(4)顧客の要望・ニーズ(未来)を知る、の4つが可能になった。登録している取引先企業数は60万を超える。
こうした仕組みが奏功し、業績は毎年、最高益を更新。株価も2003年3月の安値1222円から06年1月の高値1万4360円へと約10倍の水準まで上昇した。では、売る仕組みの強さは現在の経済危機にも打ち克つことができるか? 同社の企業分析さらには今後の株価の動向を追う上で、この点が最も重要だ。同社のファンダメンタルズからこの点を追っていこう。
大塚商会の顧客
まず顧客構成から。08年12月期実績における売上高別の構成比(単体)は、10億円未満26.8%、10〜100億円未満28.4%、100億円以上44.6%。中小・中堅企業と総称される年商100億円以下の 割合は過半数の55.3%であり、これらの投資が上向きになれば同社の業績も上向くと仮定できる。だが、どの統計をみても中小企業の業績は現在、悪化の一途だ。景気の動向を示す指標の一つであるDI値(好転から悪化を引いた指数)を見ても、08年10月−12月に急落した(図2)。売るための仕組みが本格稼働した2003年〜2005年の状況とは好対照で、大塚商会の主な顧客である中小・中堅企業のIT投資は、当面、上向くとは考えられない。
大塚商会の事業ポートフォリオ
そうだとすれば、大塚商会は何で売り上げを稼ぐのか? そのヒントが図3に示すセグメント別売上高推移である。同社のセグメントは、受託ソフト開発事業、SI関連製品事業(サーバー、コピー機、パソコン、ソフトウェアなどの販売)、サービス&サポート事業のサプライ事業(同社のサプライサービス「たのめーる」を含む)、そして保守サービスの4つからなる。
注目すべき点は、事業ポートフォリオの変化だ。特にSI関連製品事業の売上比率の低下(04年12月期売上比55.3%→08年12月期売上比 47.8%)、およびサプライ(同14.3%→20.2%)と保守(同22.9%→24.2%)の売上比率の上昇である。
サーバ・コピー機といったSI関連製品は景気の影響を受けやすい。実際、08年12月期も年後半には景気後退により商談が落ち込み、前年比▲6.7%だった。一方、コピー用紙・トナーなど必需品が多くを占めるサプライの売上高は前年比+8.5%と堅調。保守も同社が“積み上げ型ビジネス”と呼ぶように、ハードウェア・ソフトウェア保守を一度受注すれば、数年にわたって比較的安定した売り上げを見込める(保守 売上高 同前年比+3.0%)。
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