仮想化技術でサーバーを統合し、コスト削減に取り組む企業が増えている。だが、ほとんどがファイルサーバーやグループウェアサーバーの統合に留まり、基幹系の統合事例はゼロに等しい。そうした中、富士フイルムはSAP製のERPを含む約440台の基幹系サーバーを、2010度までに4台のブレードサーバーに統合する計画を進めている。 聞き手は本誌編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉
- 柴田 英樹 氏
- 富士フイルムコンピューターシステム
システム事業部 ITインフラ部 部長 - 1998年10月に入社。基幹系システムの再構築やERPパッケージのグループ展開を手掛けてきた。現在は、基幹系システムの戦略立案や開発指針の策定などを統括している。
- 渡辺 和博 氏
- 富士フイルムコンピューターシステム
システム事業部 ITインフラ部 主査 - 1999年12月に入社。基幹系システムやサプライチェーンマネジメントシステムの構築を担当。現在は、基幹系サーバーの運用管理やサーバー統合を推進するリーダーを務める。
─ 約440台の基幹系サーバーを仮想化して、ブレードサーバー上に統合するそうですね。「基幹系を仮想化して統合するとは、随分思い切ったことを」という感じです。まず、きっかけを教えてください。
柴田: 大きいのは、運用コストの増加です。当社では過去、汎用機で動いていた基幹系を刷新、オープン系に移行しました。SAPのERPパッケージや他の連結会計ソフトを稼働させていますが、グループ内外にサービスを提供してきた結果、年48台のペースでサーバーの台数が増え、現時点で298台になったんですよ。運用費で言えば、2004年度に7億円だったのが2007年度には28億円と、4年間で4倍になりました。
─ 4倍! 会社から、「いい加減にしなさい」と怒られませんでしたか(笑)。
柴田: ま、あくまでもオープン系について4倍になったということです。ホストの運用コストなどを減らしていますから、トータルは別ですよ。
─ なるほど。ホストの減少分を考えると、横ばいか、微増ですか?
柴田: いや、トータルでもそれなりに増えました(笑)。それはともかく、第2にシステム資源の有効活用に関する問題意識があります。
普通、サーバーやストレージは数年後のユーザー数や必要ディスク量、期末期首のピーク性能を考慮して調達します。すると、どうしてもオーバースペック気味になって、平常時のプロセサやメモリーの使用率は2割くらいにしかなりません。
ハードの保守切れも問題でした。オープン系のサーバーは7年ほどで保守パーツが供給停止になる。このとき単にハードを更新するだけならまだしも、OSまで新しくしなければなりません。当然、データベースソフトやミドルウェア、パッケージソフトのバージョンアップも必要になります。
─ 時々、聞く話ですが、古いバージョンのOSを最新のハードで動かすことはできないと思ったほうが良い?
柴田: OSのコアは動くかもしれませんけど、デバイスドライバが問題ですね。古いOSでは最新のドライバがサポートされていないので、実質的に古いOSは新しいハードで使えません。
─ 少し嫌な質問ですが、柴田さんは富士フイルムコンピューターシステムの部長ですよね。富士フイルムからの委託費が売り上げになるので、運用コストが高くてもいいのでは。
柴田: 当社は10年ほど前に富士フイルムから機能分社しました。富士フイルム本体やグループ各社のシステム構築と運用管理だけでなく、システム企画やIT戦略の立案、ガバナンスや情報セキュリティを効かせることも、当社のミッションに含まれます。
─ 会社は別だけど、役割は情報システム部門そのもの。
柴田: そうです。プロフィットセンターではなくコストセンターの位置づけですから、運用コストを増やして収益を上げても意味がありません。むしろ下がったほうが、グループ内で効果的に機能していることになります。
─ なるほど。よこしまな質問で、大変失礼しました(笑)。ところで統合プロジェクトの開始はいつ?
SAPの動作保証を“自信”にプロジェクトを本格化
柴田: 2007年10月です。掲げたのは、次のようなテーマでした。まず運用コスト削減、省電力化、省スペース化、システム資源の有効活用は、当たり前。ハードは小規模構成から始めて段階的に拡張可能にする。それからハード更新に伴う、ソフトの無用なバージョンアップを減らす、といったことです。
─ ずいぶん欲張りな。次に何をしましたか。
柴田: 最初の3カ月は構想固めです。仮想化技術の採用は決めていましたが、ベンダーにRFI(情報提供依頼)をお願いし、具体的にどんなテクノロジを使うか検討しました。
─ 今でこそ、仮想化はポピュラーですが、2007年だと特に「基幹系には時期尚早」と考えるベンダーが多かったと思いますが。
柴田: ええ、実際に仮想環境での動作保証に二の足を踏むベンダーはいました。でもよく聞いてみると、大抵は実績がないだけで、明確な根拠があるわけではない。何か問題が生じたとき、原因が業務システムにあるのか、ミドルウェアにあるのか、仮想化ソフトにあるのかといった切り分けができれば、保守サポートは引き受けるというのが各社の基本スタンスでした。
─ しかしその切り分けが難しいわけですよね。特にユーザー企業が切り分けに責任を持つとなると…。
柴田: その点、当社は、基幹系の構築と運用を自ら手掛けているので、技術的なポイントを抑えています。当社が切り分けをするということで、サポートも受けてもらいました。
─ なるほど。でも富士フイルムの基幹系は、SAPですよね?
柴田: ええ。財務/管理会計、販売、在庫・購買、品質管理、人事管理などを使っています。
─ 2007年当時、SAPジャパンは仮想化をサポートしていました?
柴田: 正式にはなかったですね。問題はないはずでしたが、正直、悩みました。ところが2007年12月、ちょうど構想化フェーズの最終段階になって、SAPがVMwareの仮想化ソフト上で、ERPの動作保証をすると発表したんですよ。SFA(営業支援)や連結会計で他のアプリケーションも使っていますが、SAPが大丈夫なら他もVMware上で動くだろうと考え、プロジェクトを具体化しました。
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