[ユーザー事例]

実績が少ないシンクライアントやブレードの採用に踏み切る大和証券、自らリスクを取ってノウハウを蓄積

進化するITプラットフォーム Part1

2009年6月10日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

新しいITプラットフォームを、いち早く本格導入してきた企業の1社である大和証券。ミッションクリティカルの領域で、実績が少ないシンクライアントやブレードサーバーの採用に踏み切るのはなぜか。同社のCIO(最高情報責任者)である鈴木孝一常務取締役に聞いた。 (文中敬称略)聞き手:本誌編集長 田口 潤 Photo:的野弘路

─ 大和証券は、NECのシンクライアントやイージェネラの高可用性ブレードサーバーなど、新しいIT製品の採用に積極的です。

鈴木孝一氏 鈴木孝一氏 大和証券 常務取締役
1979年に大和証券に入社して以来、情報システムの要職を歴任してきた。1996年から大和総研で証券システム開発部長や証券グループシステム事業本部基幹システム事業部長を務める。2003年に大和証券システム企画部長に就いた後、取締役システム担当を経て、2008年に常務取締役就任

鈴木: 結論を言えば、その方が理にかなっているんですよ。

金融業界では、何をするにもITを使う必要があります。ところがビジネスのスピードが速く、1、2年で終了するようなケースがある。新しいITを使わなくなってしまうんです。それを別のビジネスに転用しようにも、特定業務向けに設計してあるので難しい。そうでなくても、ベンダーに「そのハードやOSはよく分かりません」と言われたら、除却処分するか黙って放置しておくしかありません。実は、こういう問題が当たり前のように起きていました。

もう1つ、少し以前の話ですが、あるサーバーのディスクに故障が相次ぎました。交換を指示したんですが、そのサーバーは設計が特殊で、搭載していたディスクの容量が数GBしかないことが判明したんです。もう73GBや150GBが当たり前の時代でしたから、当時、「そんなサーバーがあるのか」と驚いた記憶があります。

─ 新しいITプラットフォームを使えば、そうした問題を解消できる?

鈴木: 必要に応じて処理能力を割り当てられるプロセサや、弾力的に容量をアサインできるディスクがあれば、幅広い用途に効率よくシステム資源を投入でき、例えば新ビジネスに必要なIT費用をカットできます。サーバーを調達するための社内稟議や発注、据え付け作業などの工程もなくせるので、時間を短縮できるメリットもある。ディザスタリカバリの体制も、シンプルかつ低コストで実現できます。

─ シンクライアントも同じ発想ですか?

鈴木: そうです。以前にパソコンの使用状況を調べた時の話ですが、ほとんど使っていないのにソフトのライセンスを支払っているし、CPUも遊んでいる。デスクトップ機のほかにノート機も専用端末もある。1台1台はそれほどでなくても、全体としてはものすごい無駄が発生しているわけです。

これはどう考えてもITプラットフォームのあり方に問題がある。仕組みを変えなければ無駄が続く。シンクライアントを導入した狙いは、そこにあります。ITにかかっているコストの流動性を高めて、ビジネスに貢献している分野への投資をより手厚くすることが重要です。

ベンダーを巻き込み徹底検証

鈴木孝一氏

─ しかし「安定稼働しているインフラを変更すべきでない」という考え方もあります。シンクライアントも導入方法によっては、新たにユーザー教育などが必要になってしまいます。

鈴木: できるだけITをいじらない、という保守的な安全性の担保ですね。それは否定しませんし、当社も安全性を担保したいところはハードウェアの機種やソフトウェアを固定して、ある程度長期にわたって使い続ける方針です。

しかし、その裏側で我々は常に優れた製品を探し、さらに自ら実験台になってでも徹底的に動作検証をします。ベンダー任せではなく、ベンダーとの間でリスクをテイクし合うんですよ。現在もストレージについて、NECやEMCジャパン、日本オラクル、新日鉄ソリューションズなどと一緒に、故障のきっかけになる傷のようなものをディスクに埋め込んでおいて、ちゃんとフェイルオーバーできるかといった検証を進めています。そうしなければ本当に良いシステムはできませんから。

─ 御社が主導して、そうした検証を進めているのですか。

鈴木: ええ。私自身、昨年の秋に米国に飛んで、「障害がなくなればWin-Winだろう。当社が実験台になるからみんな一緒にやらないか」と持ちかけました。さすがにこういった検証をすると、今まで分からなかったことが色々と見えてきます。例えばディスク装置には故障検知機能があるのですが、モノによっては検知するのに24時間から48時間かかる。こんなに時間がかかっていては、事実上使えません。

では、その時間を短縮すべきかというと、(少し速くなったぐらいでは)あまり意味がない。むしろ検知機能は横に置いておいて、ディスクが壊れた時にホットスタンバイ構成にした他方のストレージが立ち上がるのかを確かめたほうが現実的です。

─ 良い意味で稀有なユーザー企業ですね(笑)。しかし、なぜそこまで?

鈴木: それは投資の無駄をなくし、実用性の高いシステムを作るためです。どの企業も大抵はバックアップシステムを用意していると思いますが、7〜8割は切り替わらないですよね?

─ 確かに、切り替えに失敗してダウンが長引いたトラブル事例は少なくありません。

鈴木: 私なんか、ベンダーの人から「切り替わった試しがない」という話すら聞きます(笑)。徹底的に事前検証していない、あるいはできないと思っているんですよ。

しかし、それではバックアップシステムにかけたコストが丸ごと無駄になります。ですから、どうしたら想定した通りに切り替えられるのか徹底的に調べることにしました。そういった作業は、当社のシステム部門スタッフにとっても新しい技術を使ったり、新たなシステムを開発したりする時の礎になります。

─ 効果を手にするには、ユーザー企業も相応のリスクというか、技術検証に労力を費やす必要があると?

鈴木: それが大切です。詳細は言えませんが、最近も気になるハードウェアがあったので、米国のサンノゼに行ってきました。ストレージ関連のITベンチャーが、たくさん生まれているんですよ。いずれはストレージの使い方がポイントになると実感しました。だから今は、労力をかけてでもストレージ関連のノウハウを社内に蓄積しようと考えています。

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