[市場動向]

値上げあり、値下げあり─保守サポートの地殻変動が加速

ソフトウェア保守サポート戦略的活用元年 Part1

2010年1月5日(火)IT Leaders編集部

突然、保守サポート料を値上げするとの通知が送られてきた─。 独SAP製ERPパッケージを導入したユーザー企業から不満の声が噴出したのは2008年のこと。 それから1年余り。値上げあり、値下げあり、ソフトウェアの保守サポートを巡る動きが一段と激しくなってきた。

ベンダー動向:非公式の価格改定が広がる

ソフトウェアの保守サポートには一般に、新版へのアップグレード権利や、新制度対応プログラムおよび不具合修正プログラム(パッチ)の提供、電話やWeb/メールによる技術サポートなどが含まれている(図1-1)。年間の保守サポート料は、業務アプリケーションが値引き前のライセンス価格(正価)に対して20%前後、ミドルウェアが同じく15%前後というのが相場である。

図1-1 ソフトウェア保守サポートの概要
図1-1 ソフトウェア保守サポートの概要

ところが経済に急ブレーキがかかった2008年以降、保守サポート料を非公式に値下げする動きが広がっている。外資系大手ベンダーの幹部は、「保守サポート料の料率をライセンスの正価に適用するのではなく、値引き後の販売価格に対して適用するケースが増えている」と証言する。料率こそ変わらないが、実質的な値下げである。

国産ベンダーの中には、保守サポート料の大幅値下げにつながる料率改定に踏み切った企業も出てきた。その1社が、会計パッケージを開発・販売するエス・エス・ジェイ(SSJ)である。同社は公にしていないが、2009年12月に出荷をはじめた新製品「SuperStream-NX」の保守サポート料をライセンスの「10%以上」に設定している。この料率に販売パートナーがそれぞれの裁量で加算することになるが、従来製品「同-CORE」で適用していた約17%を下回る公算が大きい。

反対に独SAPは2008年7月、保守サポート内容の刷新に伴って料率を17%から段階的に引き上げ、2012年までに22%にすると発表(注:その後2009年4月に引き上げ期間を「2015年まで」と変更した)。ユーザー企業への通知方法のまずさから保守サポートの内容拡充に関しては情報が行き渡らず、国内企業だけでなく「欧米企業の間でも値上げを批判する声が続出した」(米ガートナー リサーチのジェフ・ウッズ バイス プレジデント)。

ユーザー実態:新版や制度対応への期待は低い

ベンダーが保守サポート料の見直しや内容の拡充を図る中で、ユーザー企業の保守サポート契約状況はどうなっているのだろうか。そもそも保守サポート契約を結ぶ際、何を重視しているのか。その実態を把握するため本誌は、ユーザー企業のIT部門責任者および担当者2000人を対象に、緊急読者アンケート調査を実施した。集計結果の概要は図1-2 Aに示す通りである。

調査結果でまず注目したいのは、契約内容の把握状況だ。回答者の実に66.3%が「大まかに把握している」レベルで、「詳しく把握している」という回答は20.6%にとどまった(図1-2 B)。「あまり把握していない」「把握していない」とする回答も合計で13.2%を占めた。

保守サポート契約で重視するポイントに関しても、ユーザー企業の実態が浮かび上がった。

ソフトの保守サポートに新版のアップグレード権利と法改正など制度変更への対応が含まれることは前述の通りだ。しかし、これらに対するユーザー企業の期待は、さほど高くないことが分かった。保守サポートを利用する際に最も重視する項目として「アップグレード権利」を挙げた回答者は全体の12.4%、「新制度への対応」は6.5%だった(図1-2 C)。一方、67.1%のユーザーは動作の安定を維持するための「不具合の修正」、つまりメンテナンスを最も重視している。

保守サポートの満足度に関する質問では「料金が高い」との回答が半数を超えた。これはある程度想定されるところだが、保守サポートの品質に不満を抱くユーザー企業が多かった事実は見逃せない。合計で30.6%が「対応が得られるまでに時間がかかる」または「期待していた内容のサポートが得られない」と回答した(図1-2 D)。なお、自由記載欄に「(不満や要望は)特にない」とする声も6件あった。

図1-2 保守サポートに対するユーザー企業の考え方や契約締結の実態
図1-2 保守サポートに対するユーザー企業の考え方や契約締結の実態(画像をクリックで拡大)
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