研究者という仕事柄、本はたくさん読みます。今回は、研究テーマである組織学習について多大な示唆を与えてくれた本を紹介しましょう。まずは、「キーストーン戦略」です。
研究者という仕事柄、本はたくさん読みます。今回は、研究テーマである組織学習について多大な示唆を与えてくれた本を紹介しましょう。まずは、「キーストーン戦略」です。
近年、産業構造は大きく変容しました。生産設備がコモディティ化し、企業は知識で勝負することを余儀なくされている。いわゆる“ナレッジエコノミー”です。そこでは知を蓄えるモチベーションに満ち、リスクを恐れずR&Dを継続できる企業しか生き残れません。
こうしたビジネス環境においては、各社に散在する知を集めて製品やサービスを構築。互いのビジネスを発展させるエコシステムを形成することが有効である。著者はそう述べます。1つの企業が持つ知識の量には限界があるし、すぐに陳腐化するからです。
このエコシステムを牽引するのが、キーストーン企業。IT業界で言うと、グーグルやマイクロソフト、NTTドコモ、アップルがこれに当たる。いずれも、検索エンジンやOS、携帯プラットフォームといったエコシステムの“要石”となる技術やノウハウを握り、周辺に様々な製品・サービスを生み出し成功しています。
「企業生命力」は、企業を生き物としてとらえ、長寿の条件を探ったユニークな本です。200年以上存続している老舗企業を調査し、「環境に敏感である」「強い結束力と独自性を備える」「権限が分散している」「資金調達が保守的」という共通の特徴を導き出しています。逆に、権限が一極に集中した上意下達の組織や、結束力に欠ける組織では、イノベーションが起きにくく、生き残りに不可欠な知を蓄積できないんですよ。
ここまで、ビジネス書を2冊紹介しました。「孤独なボウリング」は、ちょっと趣が異なります。この本は、現代社会におけるソーシャルキャピタルの希薄化について分析した良書です。ソーシャルキャピタルとは、人々の信頼関係や規範のこと。著者によると、米国では1980年代、個人主義の行き過ぎにより人々のつながりが薄れた結果、社会の効率が著しく低下してしまった。人々の学習する力が衰えたからです。
同じことが、企業にも言えると思うんです。例えば、企業内の経営層と社員、あるいは社員同士の相互作用が失われてしまうと社内の業務効率が低下し、イノベーションが阻害される。企業にとって、ソーシャルキャピタルの維持・強化はこれからの課題でしょう。
小説はあまり読みません。作者の意図が透けて見えることが多いので。「読み手にこう思わせようとしている」と感じると、それ以上読む気がしなくなってしまうんですよ。もちろん、素晴らしい文学作品にも数多く出会いました。例えば川端康成の作品。「雪国」や「伊豆の踊子」は奥行きがあって、深く考えさせられました。ほかに、カフカやカミュ、カズオ・イシグロの作品にも感銘を受けましたね。
先日、ハワイで休暇を過ごしました。ビーチでの1冊は、「Three Roads to Quantum Gravity」。量子重力に関する本です。「量子宇宙への3つの道」という書名で日本語訳も出ていますよ。リゾートには似つかわしくない? ええ、家族に笑われました(笑)。
アリー・デ・グース 著
堀出 一郎 訳
ISBN:978-4822242756
日経BP社
2100円
ロバート・D・ パットナム 著
柴内 康文 訳
ISBN:978-4760129034
柏書房
7140円
- デビッド・ジェームズ・ブルナー
- ハーバード・ビジネス・スクール研究員
- 情報技術、経済制度、組織学習、日本の経営といった観点から研究を進める経営学者。2002年にスタンフォード大学コンピュータサイエンス学部卒業。東京とサンフランシスコでボストン・コンサルティング・グループに勤務後、ハーバード大学に入学。2009年、同大で「情報・技術・経営」の博士号を取得。現在はハーバード・ビジネス・スクール研究員のほか、東京財団研究員、アライアンス・フォーラム財団研究員を務める。
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