小学生のころは伝記が好きでね。エジソンやパスツールは何度読んだことか。こんな人になりたいなぁと子供心ながら憧れたものです。その後は本から遠ざかった時期もあったんだけど、大学に進学したら周りは読書家ばかり。学生運動が盛んな時期で、世の中を変えるんだと燃える連中は総じて、様々な本に触れて知識を高めようとしていました。ビハインドを感じて、私もむさぼるように本を読むようになり、その習慣が今でも身に染み渡っています。
小学生のころは伝記が好きでね。エジソンやパスツールは何度読んだことか。こんな人になりたいなぁと子供心ながら憧れたものです。その後は本から遠ざかった時期もあったんだけど、大学に進学したら周りは読書家ばかり。学生運動が盛んな時期で、世の中を変えるんだと燃える連中は総じて、様々な本に触れて知識を高めようとしていました。ビハインドを感じて、私もむさぼるように本を読むようになり、その習慣が今でも身に染み渡っています。
お勧めの本がたくさんあって迷うところですが、まずは「国をつくるという仕事」(西水美恵子)を挙げましょう。貧困などにあえぐ途上国に赴き、自立的発展に心身を捧げた筆者の言動や思いには心打つものがあります。真に豊かな暮らしとは何かをあらためて考えるよいきっかけになります。その点では「ピダハン」(D.エヴェレット)も一読の価値あり。アマゾン奥地に暮らす少数民族の言語文化や価値観のユニークさを綴ったノンフィクションです。人の営みの豊かさって、凝り固まった“常識”で判断してしまいがちですが、それがすべてではないことに気付かされます。
これらを先に挙げたのには理由があって…。ITって、個人の生産性を上げるとかビジネスに競争力を持たせるとかの文脈でとらえる方が少なくないと思いますが、今やもっと大きな使命を担っているものだと思うのです。平たく言えば、社会基盤そのもの。水や道路と同じで生活に密着し、合理性をもって“豊かさ”に人を導くポテンシャルがある。2015年には脳をシミュレーションできるようになるという研究報告もあり、コンピュータが本格的に“知”の領域にも入ってきます。
そうして考えると、IT業界に関わる我々は、社会システムのデザインにもっともっとコミットするべきだし、その責務があると思うのです。大袈裟に言えば、ITのプロフェッショナルとして未来にビジョンを持たなければならない。その大局観はきっと日頃の仕事にも活きるはずです。
基本となるのは、ITの社会的役割や影響について理解を深めることでしょうか。その観点ではフリーマン・ダイソン氏の著作「科学の未来」「ダイソン博士の太陽・ゲノム・インターネット」が示唆に富みます。「自動車の社会的費用」(宇沢弘文)と「私的企業と社会的費用」(K.W.カップ)は共に古い本ですが、中に書かれている考察は今でも光を放っている。ソーシャルやビッグデータがもたらす価値を考えるには「Reinventing Discovery(オープンサイエンス革命)」(M.Nielsen)、「The Fourth Paradigm」(Microsoft Reser-ch、オンライン公開)がお勧めです。
昨今、ITは身近さを増している一方で、ブラックボックス化が進んで内部的な動作や理論が見えにくくなっている気がします。未来に思いを馳せるにはITの背後にある数学的な素養も刺激材料。「新訳 データ構造とネットワークアルゴリズム」「Google PageRankの数理」なんかどうでしょう? 2冊とも私が翻訳に関わっていますが、中身の濃さは折り紙付きですよ。
科学の未来
フリーマン・ダイソン 著
ISBN: 978-4622071853
みすず書房
2730円
The Fourth Paradigm: Data-Intensive Scientific Discovery
Microsoft Research 著
- 岩野 和生 氏
- 独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー
- 東京大学理学部数学科を卒業し大手ITベンダーに入社。米プリンストン大学に留学しコンピュータサイエンス学科でPh.D取得。帰国後、R&D関連の要職を歴任。2012年より現職。東京工業大学客員教授、筑波大学客員教授、情報処理学会フェローなどを兼任
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