[イベントレポート]
社会インフラも視野に入れた統合管理の最新像、中核基盤としてISMを提唱─IBM Pulse 2010
2010年3月29日(月)鳥越 武史(IT Leaders編集部)
米国カンファレンス現地レポート(1)─カジノの街ラスベガス。米IBMのTivoli製品関連イベント「Pulse 2010」は、昨年に引き続きこの地で開催された。世界から約5300人、日本からは約40人のTivoliユーザーやパートナーが参加。お目当てはカジノではなく、IBMが示すサービスマネジメントの最新像だ。
[基調講演]
ITと非ITの管理を統合
水位計と通信モジュールを備えたマンホールの蓋で都市部の洪水を検知する。カジノホテルへの電力供給状況を常時監視し、電力の不足時には遊戯機器に優先してホテル本体に電力を供給する─。これらはそれぞれ、米ワシントンDC上下水道局とカジノホテル運営の米サンズが稼働させている、現実のシステムだ。IBMがPulse 2010開催初日の基調講演で紹介したこれらの事例は、IBMが「Smarter Planet」と呼ぶコンセプト、すなわち最新技術で世界中の業務や社会生活の高度化を図ろうという構想を具現化したものだ。
スマートメーターやRFIDといったセンサー技術の進歩によって、IT資産だけでなく、社会インフラを構成する各種機器の情報も幅広く収集できるようになった。片や情報活用基盤となるITインフラに目を向けると、仮想化技術の進歩でデータセンター内のリソースを柔軟に活用できるようになっている。「技術の進歩は、10数年前には夢物語だったことを次々と可能にしている」(Tivoliゼネラルマネジャーのアル・ゾラー氏)。システム資産と非IT分野の物理資産の統合管理に必要なものとしてIBMがこのPulseで提唱したコンセプトが、「Integrated Service Management(ISM)」だ。
ISMが目指すところは「visibility(可視化)、control(制御)、automa-tion(自動化)」(ゾラー氏)。情報源の多様化や、抽象化された仮想化環境で、データ管理やシステム運用はますます複雑化している。これらを総合的に管理し、効率化に生かそうというのがISMである。具体的には仮想環境の運用管理機能を備える「Tivoli」を中心に、企業資産管理の「Maximo」、開発支援ツールの「Rational」などを組み合わせてシステムインフラと物理資産を統合管理し、リソースの見える化や管理の自動化を実現する。Pulse 2010の開催に先立つ2010年2月16日に、IBMが買収したネットワーク管理自動化ソフトウェアの米Intellidenの製品も、この一翼を担う。IBMは、同社製品をTivoliブランドに統合する。
運用管理製品であるTivoliのイベントで、開発系のRationalの話題があるのは意外だと思うかもしれない。だがRationalのゼネラルマネジャーであるダニー・サバー氏は、ITプロジェクトのコストの30%がアプリケーションの作り直しに費やされていると指摘。「この現状を打開するには、システム開発に運用を紐付けた管理が必要だ」(サバー氏)。そのために同社はRationalとTivoliとの機能連携も進め、Tivoliで問題の発生を検知したアプリケーションをRationalで修正する、といった運用を可能にしている。
クラウドの前に仮想化の徹底を
2日目の基調講演では、システムソフトウェア担当ゼネラルマネジャーであるヘレネ・アーミテージ氏が登壇し、ISMの前提となるデータセンター管理体制の構築について講演した。氏は、社内データセンター効率化のためにはサーバーだけでなく、ストレージやネットワークを含めたデータセンター内のすべてのリソースの仮想化が必要だと強調。「仮想化をサーバーから始めるのはいいが、ストレージやネットワークも併せて考えないと、そこがボトルネックとなり思わぬコスト増を招きかねない」。
クラウドやSaaSといった新しいシステムデリバリーモデルの導入を検討する前に、まずは仮想化で社内システム環境の構成変更を容易にし、管理体制を統合するのが先決だとアーミテージ氏は語る。「社内データセンターにはサーバーだけでもメインフレームやUNIXサーバーなど多数の要素があり、管理システムもバラバラだ。それを統合された1つのダッシュボードで管理して可視化を促進しなければならない」(アーミテージ氏)。社内環境の統合管理を実現して始めて、クラウドやSaaSといった社外サービスを含めた統合管理が実現できる、という考えに基づく。
[新製品・サービス]
統合ログ管理製品を国内初提供
会期中にはISMを具現化するための製品やサービスが多数発表された。既存製品のアップデートや、同社が最近発表した製品・サービスのISMにおけるポジションの再確認が中心だ。新たに発表したのは、「IBM Maximo Real-Time Asset Locator」。物理資産の現在の位置情報をトラッキングし、資産の見える化を支援する。航空、電力・公共、ヘルスケア、製造業向けに提供する。
統合ログ管理製品の新版「IBM Tivoli Security Information and Event Manager V2.0」も発表。この製品は、日本IBMが同月26日に国内投入した。IBMの統合ログ管理製品の国内提供は、この新版が初となる。
協業もいくつか発表した。リコーとは複合機の管理で提携。Tivoli製品をベースにした新たなソフトウェアを共同開発する。複合機の利用状況によって自動的に電源をオフにしたり、カラーコピー禁止といったポリシーを強制適用できるようにする。「プリンタを常時オンにしている企業がほとんど。これをきちんと管理できれば、印刷関連コストを10〜30%カットできる」(IBMのアル・ゾラー氏)。
[事例発表]
ISMへの先駆的取り組みを発表
国内外のTivoliユーザーの講演にも来場客の注目が集まった。2日目の基調講演では、ISMに取り組む5社の先駆的Tivoliユーザーを集めたパネルディスカッションを開催した。参加したのは、ユニリーバ、ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)、ベンディゴ・アンド・アデレード銀行、南デンマーク地域、資産運用のステート・ストリートの5人のIT責任者。
UPMCは、IBMやVMwareの仮想化技術を利用しサーバーやストレージを集約。その環境をTivoliで統合管理し、運用を効率化している。同院のITトランスフォーメーション担当バイスプレジデントであるポール・シコラ氏は、「5年前と今を比べると、従業員数は3万人から5万人に、PC数は2万2000台から5万台に、ストレージの規模はテラバイトからペタバイトに増大した。だがIT運用全体にかかるコストは大幅に下がっている。これはISMへの取り組みのおかげだ」と語ると、会場から一斉に拍手がわき上がった。
[展示コーナー]
仮想環境の管理製品に注目
展示コーナーには、IBMや同社のパートナーが95のブースを出展した。来場者の注目を集めていたのは、仮想環境のシステム管理製品の紹介ブースだ。その1つが「IBM Tivoli Provi-sioning Manager for Images」。これはHyper-VやXenなどの仮想化ソフトと連携し、仮想・物理環境の双方へのOSイメージの配付や、ワークロードの一元管理が可能な製品だ。
国内からは旭エレクトロニクスと、富士通フロンテックの米国現地法人であるFujitsu Frontech North America(FFNA)が出展していた。FFNAは、IBMのシングルサインオン基盤「IBM Tivoli Access Manager for Enterprise Single Sign-On」を利用したシステムに、非接触型の手のひら静脈認証機器でログインできる「PalmSecure LOGONDIRECTOR」を展示した。 (鳥越 武史)