ITシステムの構築・運用管理業務に加え、昨今では、ビジネスへの直接的な貢献も求められるようになった企業のIT部門。“持たざるIT”の実践であるクラウド・コンピューティングへの期待も高まるなかで、IT部門の役割、あり方がこれから大きく変わろうとしています。変化は、ITベンダー各社の戦略やメッセージにも表れていて、IT部門というよりも、CEOや経営層のITリーダー(つまり、本来の意味でのCIO)に向けた経営革新の訴求が以前よりも目立つようになりました。
私が5月の第1週に取材した、米国IBM主催のBPM/SOA関連カンファレンス「Impact 2010」でも、「役割、あり方を変えていくIT部門」と「経営革新のメッセージを前面に打ち出すITベンダー」という、双方にとっての“この先”を強く実感させられました(カンファレンスのテーマ上、当然ではあるのですが)。ここで発表されたIBMのBPM/SOA分野での戦略や新製品については、後日レポート記事として報告させていただくとして、本コラムでは、会期に合わせて発表され、ラウンドテーブル・セッションも開かれた「IBM Travel and Transportation Framework」(旅行・運輸業界向けフレームワーク)を取り上げたいと思います。
今回発表されたのは、IBMが長年取り組み、現時点で17の業界に提供している産業フレームワークのうち、旅行・運輸業界向けの最新版となるものです。同社のメッセージは、単なる特定業界のためのIT製品ポートフォリオという形ではなく、経営層に業界全体のイノベーションを強く促す、提言的な内容になっています。
米国IBMのインダストリー・ソフトウェア部門でインダストリー・ソリューションズ担当バイスプレジデントを務めるジョン・ソイリン氏は、資産集約型で大量のエネルギーを必要とする運輸業においては、効率化の余地がまだたくさんあるとし、鉄道を例に挙げて次のように話しています。「鉄道をより効率の高い輸送機関にするための投資には大きな意義があり、自動車の道路渋滞や環境負荷の緩和をはじめ、もたらす影響は業界内にとどまらない。例えば、全米の貨物輸送会社があと1マイルずつ輸送距離を伸ばすことができれば、それだけで約30億ドルのコスト削減につながるという試算もある」。
一方、旅行業についてソイリン氏は、「予約と利用状況の管理が最も重要だが、現状、多くの旅行会社の予約システムはモノリシックで連携性を欠いている」と指摘。そして、新しいフレームワークの提供でIBMが目指すのは「予約システムの現代化(モダナイゼーション)」であり、航空会社やホテルチェーンなどとの連携が容易な、旅行・運輸業界全体で標準化されたネットワークを実現できれば、顧客本位の、真の意味での変革になると強調しました。
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