[イベントレポート]
HP、ITデリバリ環境の急速な変化に応え投資効果の最大化図る製品・サービスに注力
2010年8月2日(月)鳥越 武史(IT Leaders編集部)
「Outcomes That Matter」─。リーマンショック後の景気後退を乗り越え、日本より一足先に新規のIT投資が戻りつつある欧米のユーザー企業。彼らの関心は、ITをいかに効率的に活用するか、いかに迅速に投資効果を上げるかに焦点が移りつつある。そんな中、米ヒューレット・パッカード(HP)が開催したのが、同社Software & Service部門の年次イベント「HP Software Universe 2010」だ。
会場は米ワシントンD.C.に隣接するメリーランド州にあるゲイロード・ナショナル・リゾート&コンベンションセンター。世界各国のユーザー企業やパートナーなど2000人以上が駆けつけた。冒頭の「Outcomes…」は、今回米HPが掲げたテーマだ。
プライベートクラウドが主流に
基調講演では、米HP Software & Services エグゼクティブバイスプレジデントのビル・ベクティー氏が企業内のIT環境に根本的な変化が起きていると指摘。仮想化は引き続き企業内での利用が広がり、「x86システムで稼働するワークロードのうち、仮想環境で稼働するものは現状で28%だが、2012年には48%に増加する」(ベクティー氏)。
クラウドコンピューティングについては、「次の2、3年でプライベートクラウドが普及し、クラウドのメインストリームになる」(同)と主張。さらにスマートフォンやタブレット端末などのモバイル端末の急速な普及がIT環境の変化に拍車をかけていると指摘し、「2010年以内に10億台のモバイル端末がインターネットに接続する」と続けた。
急速に変化するIT環境。こうした状況下でIT投資効果をいかに最大化するか。それに対する回答として米HPが示したのが、サービス管理やアプリケーション開発支援、ソフトウェアサポートの3つの新製品・サービスだ。
社内・クラウド統合監視製品など
1つめは、サービス管理製品群の最新版「HP Business Service Management(BSM) 9.0」だ。システムの構成管理・変更管理製品「HP Operations Manager i(OMi) 9.0」、アプリケーションのパフォーマンス監視製品「HP Business Availability Center(BAC) 9.0」などで構成する。
新たに追加したのは、「Run-time service model」と呼ぶ機能。これは業務プロセスからアプリケーション、ミドルウェア、インフラの依存関係をマップ化し、さらに変更や障害といったパフォーマンスに関わる事項が発生した時、迅速にマップに反映する機能だ(写真2)。
OMiは、各種ソフトウェアやミドルウェアの情報を監視可能にする「HP Operations Smart Plug-ins(SPIs)」を利用することで、物理環境だけでなく、VMwareなどの仮想環境も統合監視する。システム監視製品「HP SiteScope」の利用でAmazon EC2上の仮想サーバーを監視できる。監視データをEC2の仮想サーバー監視・管理ツール「Amazon CloudWatch」に送信し、負荷状況に応じた自動スケールアウトの実行も可能。
2つめは、アプリケーション開発時のテストデータを自動生成する新製品群「HP Test Data Management」だ。実データをテストで利用する際、データの抽出や、セキュリティ対策で必要となるマスキングを自動化する機能を搭載する。
3つめは、同社ソフトウェアの新たなサポートサービス群「HP Solution Management Services」。トラブル対応やメンテナンス・変更管理、システム運用代行、製品のカスタマイズや他のベンダーの製品とのインテグレーションなどで構成するサービス群だ。各製品・サービスの日本での販売計画は、現時点では未定である。
デルタ航空のシステム統合事例
基調講演では、米デルタ航空のシニアバイスプレジデント兼最高情報責任者(CIO)を務めるテリーザ・ワイズ氏が、2010年1月末の米ノースウエスト航空との経営統合に伴うシステム統合について語った(写真3)。
システム統合に当たっては、ITサービス管理製品の「HP Service Manager(旧HP ServiceCenter)」を、運用管理標準であるITILプロセス徹底のための中心的なコンポーネントとして活用。「2つの企業の大きなレガシーシステムを1つに統合する際、プロセスの標準化が両社の技術者やサービス管理者の共通言語となった」(ワイズ氏)。
さらに統合で急増する端末のパッチやアップデートの効率的な配布を実現するため、デスクトップデバイス管理の「HP Client Automation Center(旧HP Radia)」を採用。アプリケーション開発には、品質管理製品の「HP Quality Center」を利用し、ソフトウェア品質維持の負担を軽減した 。「フライト予約などの顧客向けシステムの開発スタッフはカスタマーエクスペリエンスの向上に専念できた」(同)。
新製品も展示、仮想化に根強い関心
展示ブースは米HPや、同社パートナー78社が出展した(写真4)。米HPのブースでは、新製品のBSM 9.0なども早速展示しており、参加者は新機能であるRun-time service modelを利用して描いたトポロジーマップに見入っていた。
パートナー企業のブースも活況を呈した。アプリケーション開発におけるテストや品質管理分野で協業する独SAPのブースでは、SAP製品の導入やアップグレード時の品質・パフォーマンス管理製品「SAP LoadRunner by HP」などを展示・説明していた。米オラクルのブースでは、米HPのBACで同社製アプリケーションを管理可能であることなどをアピールしていた。ほかには米VMwareや米Red Hatなどの仮想化関連ベンダーのブースが盛況だった。
日本からの直接の出展企業はなかったが、日立製作所のカナダ現地法人であるHitachi ID Systemsがブースを構え、同社の統合ID管理製品「Hitachi ID Management Suite」について説明していた。同製品は、国内では日立システムアンドサービスが2010年6月に販売を開始した。 (鳥越 武史)
(修正2010年8月18日19時16分)掲載当初、記事タイトルが「【Innovate 2010(米ヒューレット・パッカード)】」となっていたのは、「【HP Software Universe 2010(米ヒューレット・パッカード)】」の誤りでした。本稿では修正済みです。