[憂国居士の国家IT戦略考]

迷走するIT政策のリーダーシップ

2010年9月3日(金)奥井 規晶(インターフュージョン・コンサルティング 会長)

久しく目を向けられなかった国家IT戦略が、参院選を迎えた4〜6月に急に着目され、具体化が進んだかのように見える。しかし、実際には政策推進のリーダーシップの欠如、IT政策自体の乱立、といった問題を多分にはらんでいる。

 政府の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」は2010年6月22日、「新たな情報通信技術戦略 工程表(新IT戦略の工程表)」を策定した。これは、5月に発表した「新IT戦略素案」の具体的な実現手順を明確化したものである。6月18日に策定された「新成長戦略」と連動し、ICTによる経済成長の方向性を具体的に描いている。

 新IT戦略の中身自体は、自民党政権末期から霞が関で議論されてきた項目ばかりで、特段の新味はない。しかし、「国民本位の電子行政の実現」「地域の絆の再生」「新市場の創出と国際展開」と言った大項目のくくり方や、「どこでもMY病院」などの言葉遣いに民主党らしさが見られる。関係府省の取り組みを短期、中期、長期に分けて記載した工程表は、具体性の観点から評価できる。少なくとも、自民党政権末期の2009年7月に発表された「i-Japan戦略2015」より本気度が感じられる。

 問題は、推進体制である。IT戦略本部はリーダーシップを発揮できるのか。3つの点で非常に心配である。

 まずは、外野が多い。新IT戦略の工程表が明らかになる前、総務省は「原口ビジョンⅡ」、経済産業省は「情報経済革新戦略」をそれぞれ発表。さらに、民主党内の情報通信議員連盟(IT議連)は4月に「情報通信八策」を提言した。こうした外野の声を、IT戦略本部はどうとりまとめていくのか。

 2つ目の不安は、IT戦略本部の資質についてだ。本部長である菅直人首相は、鳩山内閣で科学技術担当大臣を兼務していたこともあるが、実はITにはあまり詳しくない。2009年11月、内閣委員会でクラウドについて尋ねられて「INSなら知っていますが」と超時代遅れな答弁をしていたほどだ。現・科学技術担当大臣であり、IT戦略本部の副本部長を務める川端達夫文部科学大臣も、大手化学メーカーの研究所にいたとはいえITに造詣が深いとは思えない。まして、文科相との兼務でこれだけの重要な政策をリードできるのかは大いに疑問だ。

 資質という面では、本部の直下でCIO連絡会議や専門調査会、タスクフォースのすべてを仕切る企画委員会の顔ぶれにも疑問符がつく。副大臣・政務官で構成するという政治主導の姿勢はよいのだが、民主党の中でICT通として知られる人材が入っていない。専門調査会やタスクフォースでは外部の有識者や学者を多用する予定というが、それを誰が選ぶかと言えば、官僚だろう。結局、官僚主導の実態が変わることはなさそうだ。

 IT戦略本部をめぐる3つめの心配は、原口一博総務大臣の強すぎるプレゼンスである。総務省のICT戦略に「原口ビジョン」と個人名を冠し、2009年末には情報通信文化省の設立を唱え始めた。このほか、NTT再々編を画策したり、ソフトバンク孫正義社長の提言を入れて「光の道」構想を打ち出すなど、その積極性は飛び抜けている。新IT戦略を実質的に主導するのは、川端大臣でも菅首相でもなく、原口大臣だ。暗黙のうちにそう認識している関係者は少なくない。そうしたなか、IT戦略本部は求心力を発揮できるのか。

 以上、新IT戦略がはらむ不安要素を3つ挙げた。本稿を執筆した7月以降、内閣改造が実施されれば登場人物も替わるだろう。本連載は今後、本誌Webサイトに場所を移して随時掲載していく。

政府が掲げる新IT戦略をめぐる3つの心配
政府が掲げる新IT戦略をめぐる3つの心配
奥井 規晶
インターフュージョン・コンサルティング 会長
日本IBMでSEとして活躍後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後、アーサー・D・リトルディレクター、シークエンシャル代表取締役、ベリングポイント代表取締役を歴任し、2003年4月に独立。2007年1月より現職。著書に「V字回復の現場力」「外資の3倍速仕事術」など。
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