[憂国居士の国家IT戦略考]

政局が影響与える国家IT戦略

2010年10月13日(水)奥井 規晶(インターフュージョン・コンサルティング 会長)

今回は最近の政局、特に民主党代表選と菅改造内閣がICT関連の予算にどのように影響を与えるかを解説したい。ポイントは、原口一博大臣の更迭と補正予算だ。

 去る2010年9月14日の民主党代表選挙はご存じのように、菅直人総理の圧勝だった。その後の各メディアによる世論調査では、参院選でどん底に落ちた内閣支持率がV字回復し、何と内閣発足以来最高支持率を報じるメディアまであったのは記憶に新しい所だ。

 6月の菅内閣発足以来、参議院選挙、民主党代表選挙と政治空白を作っただけで代表選直後の為替介入以外何ら政策的な貢献のない内閣の支持率がこれほどまでに上昇するとは、世間の「反小沢」感情が高かったことの表れかもしれない。

図1 管改造内閣とIT戦略
図1:管改造内閣とIT戦略

 実は、この「反小沢」感情が、6月に発表された「新IT戦略」、8月にまとめられた概算要求(特にIT関連予算)に大きな影響を与えるかもしれないのだ。

 この影響の直接の引き金は、代表選の際に小沢元幹事長への支持を表明した原口前総務大臣が降格された事だ。同様の降格は、山田正彦前農水大臣などにもみられ、各々衆議院の常設委員会である、総務委員会、農水委員会の委員長となる。

 原口前総務大臣の後任には、元鳥取県知事の片山善博氏が就任した。自治体改革で名をはせた片山氏が地方分権推進を謳う民主党で総務大臣に就任するのは世間的には問題ないだろう。

 しかし、ICTの世界となると変わってくる。何しろ原口前総務大臣は「原口ビジョン」と自分の名を冠したビジョンを公表し、それが総務省の政策となり、政府の「新IT戦略」、「新成長戦略」の屋台骨となっているからである。原口前大臣が「小沢支持」さえ表明しなければ、或いは、小沢氏が代表選で勝っていればと思うIT業界関係者は多いのではないだろうか。

 片山総務大臣は自治省出身で自治体畑を歩んでこられたので、ICTに関して造詣が深いとは思えない。「原口ビジョン」は既に総務省の基本政策として既成事実化し、概算要求もそれに沿って提出されている(筆者試算で約830億円、今年度より3割増)。

 したがって通常のプロセスであればそう簡単に削られる事はないのだが、現在の状況で片山新大臣がどけだけIT関連予算を守りきれるか不安だ。少なくとも、原口前大臣のような強烈なリーダーシップは期待できなさそうだ。何しろ今回の概算要求(一般会計)は、全省庁あわせて96.7兆円と過去最大の巨大予算なので、財務省の査定も、野党の追及もかなり激しいものが予想される。

 総務省と常にICT関連で覇権争いをしている経産省は、トヨタ労組出身だった直嶋前大臣に代わり、日立労組出身の大畠新大臣が就任した。鳩山派がポストを死守した形となっている。大畠大臣は日立製作所で原子力プラントの設計をしていた経歴があり科学技術への造詣には期待できそうだ。

 この1年、経産省は原口前総務大臣のリーダーシップに隠れてITの世界では目立たなかったように思える。しかし、5月に産業構造審議会の議論を受けて「情報経済革新戦略」を出したあたりから、影響力が復活し、新IT戦略も総務省と領域を分かち合った。今回の概算要求でも約360億円と昨年の倍増(いずれも筆者試算)のIT関連予算を要求しているほどの積極さだ。経済成長にIT活用が必須であることを熟知し、政策に反映しているのはIT業界としては頼もしい限りだ。大畠大臣がこれをどこまで押し切れるかを楽しみにしたい。

 一方、経済評論家として名高かった海江田万里氏(鳩山グループ、親小沢)が新たに経済財政担当兼科学技術担当(加えて宇宙開発担当も)の大臣に就任した。内閣官房の通称「IT戦略本部」とその所管である「新IT戦略」は、これまでの川端前文部大臣兼科学技術担当大臣に代わって海江田新大臣が仕切ることになる。

 海江田大臣が金融分野での造詣が深いのは世間も良く知るところだが、残念ながらICT分野についてはそれよりはかなり落ちるだろう。ただ、労組出身の川端前大臣よりは、民間経済感覚を良く知る海江田大臣の方が期待は持てるような気がする。

図2 IT関連予算と与野党協議
図2 IT関連予算と与野党協議
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