IT部門はいわば、社内顧客に対するサービスプロバイダーである。企業を取り巻く環境が刻々と変化する中、時にはグローバルなITベンダーの状況を知ることで、自部門の戦略を見つめ直すことも必要だ。
※本連載はガートナーのリサーチ「The Future of Outsourcing and IT Services: Special Report」をもとに日本法人アナリストが一部編集し、加筆したものです
確実性の乏しい経営環境にあって、ビジネスのグローバリゼーションは加速度的に進む一方だ。こうした中、世界のITサービス市場で起きているさまざまな変化は、ITベンダーに将来どのような影響を及ぼすのだろうか。ガートナーは目の前にあるリスクとチャンスの着眼点を、次のように整理する。
リスク 1. 市場の成熟化
世界的にITサービス市場の成熟化が進んでいる。日米欧の各地域はもとより、BRICsの新興市場にも減速感が見える。企業間の競争は厳しさを増し、プレイヤーが淘汰されるサイクルは早まる。昨今、大手サービスプロバイダーの買収が目立つのも、その表れだ。例えばDellはPerot Systemsを、HPはEDS、XeroxはBPO大手のACSを買収した。
リスク 2. 薄れる顧客との信頼関係
景況の変動に関わらずユーザー企業はIT支出に慎重だ。新規テクノロジーの導入を手控え、プロジェクトを縮小したりベンダーと交渉する専門家を採用したりし、IT支出の合理化に余念がない。一方、ベンダーも収益悪化を抑えるために過剰なサービスを止めた。契約に“忠実すぎる”サービスレベルに下げたことで、かえって顧客満足度は低下している。両者の暗黙的な相互信頼が崩れ始めている。
リスク 3. 次世代サービス提供モデルの登場
クラウドサービス市場が既存のITサービスビジネスを侵食しつつある。例えば、オンプレミス型のシステム開発や運用/保守サポート、IT基盤の構築/インテグレーションなどのビジネスは影響を受けるだろう。
リスク 4. ソフトウェア調達の多様化
ユーザー企業は他社と差異化すべきアプリケーションと、“他社並みでもよい”と割り切って標準化すべきアプリケーションを明確に区別し始めた。SaaSやパッケージが備える標準機能も安くて早いものを積極的に採用する傾向が強まっている。従来の作り込みやカスタマイズといった時間と工数のかかるアプローチは、縮小傾向に拍車がかかるだろう。
リスク 5. “フラット化”への反動
国境を越えて最適なリソースを最適な地域から利用する“ワールド・イズ・フラット”。この考え方は成長経済なら通用するが、不況になると一時的に保護主義的な反動が起こりやすい。例えば米国では、「H1-B」という専門職向けの一時就労ビザ取得にかかる費用を昨年7倍に引き上げた。外国人より国内の雇用創出を優先するこの動きは、米国市場への参入を視野に入れるベンダーにとって障壁になりかねない。
環境変化がもたらす5つの好機
一方、現在の経営環境はITサービスプロバイダーに新しいビジネス機会をもたらしうる。それは例えば次のようなものだ。
チャンス 1. デジタライゼーション
ムーアやギルダーの法則に従い、情報の処理/流通コストが劇的に低下し続けている。世界に遍在する顧客相手にビジネスを展開できるようになり、中小企業が情報を武器に大手企業に競争を挑める機会を増やした。ここでの問題は、情報のデジタル化をいかにビジネスモデルに結びつけるかである。そのアイデアを誰かが提案してくれることを、ユーザー企業は期待している。
チャンス 2. オートメーション(自動化)
効率化/コスト削減は企業にとって永続的な課題であり、その取り組みに終わりはない。人件費は依然として固定費の大部分を占めており、ビジネスプロセスを自動化するニーズは今後も健在であろう。SOAによるシステムの再構築やBPMを実施するためのツールの充実が、この流れを後押しする。
チャンス 3. パターン・ベース・ストラテジー(PBS)
PBSはさまざまな情報を1つのシグナルとして捉え、その中に潜むリスクやチャンスを発見し、対策を講じるという新たな情報分析手法の1つ。ユーザー企業がPBSを実践する際、ベンダーは必要な情報の定義、収集方法、分析、パターンの発見、分析サイクルの定着など、さまざまな局面で商機を見い出せる。
チャンス 4. IT資産のオーナーシップ
クラウドに象徴する「所有から利用」への流れは、アウトソーシングビジネスには追い風になる。「利用する」領域は主に標準化したサービスが適用されるが、これは必ずしも競争優位性が低い領域ではない。営業支援業務などは企業の競争力を左右するもののSaaSの活用が盛んな領域である。むしろ実装スピードの向上によって、機会損失を極小化したいという狙いが全面に出ている。
チャンス 5. 経験を売る
自社内で利用するシステムやツールを外販することは、プロモーションの説得力を増すのに有効である。業務/業種に特化したコンサルティング、アプリケーション開発、運用管理などの経験値をBPOとして提供してもよい。問題は販売するに足るベストプラクティスが社内にあるかどうかだ。
リスク | チャンス |
---|---|
市場の成熟化 | デジタライゼーション |
薄れる顧客との信頼関係 | オートメーション(自動化) |
次世代サービス提供モデルの登場 | パターン・ベース・ストラテジー(PBS) |
ソフトウェア調達の多様化 | IT資産のオーナーシップ |
“フラット化”への反動 | 経験を売る |
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 次へ >
- 加速するビジネススピードとの同期にSOAとBPMの価値を再認識する時【最終回】(2011/10/19)
- 容量肥大化だけでないビッグデータの課題 本質見極め適切なテクノロジの選定を(2011/08/22)
- ソーシャル情報を最大限に生かす IT部門は積極的な関与と統制を(2011/07/21)
- グローバル企業が検討すべき「キャプティブセンター」の価値(2011/06/16)
- BCMに不可欠なガバナンス体制─鍵は権限・責任の明確化(2011/05/18)