ネガティブに受け取られがちな「情報爆発」という言葉。しかし、昨今のテクノロジーの進化からすると、むしろそれはビジネス価値創造の泉ととらえることも可能です。2011年は、“ビッグデータ”をめぐるベンダーとユーザーの取り組みに要注目です。
「情報の大爆発」や「情報洪水」といった言葉が使われるようになって10年、いや20年は経ったでしょうか。ご存じのように、情報に対する社会的なニーズの高まりとそれにこたえるITの進化によって、企業で扱う情報・データがものすごい勢いで増え続けています。特にここ数年は、RFIDタグや各種センサ、TwitterやFacebookに代表されるアクティビティ・ストリームなど新しい情報収集手段/ソースがたくさん加わり、情報爆発ぶりにいっそう拍車がかかっている状況です。
大波のごとく押し寄せてくる情報があまりに膨大すぎて重要な情報を見失う――そんな具合に、日々のビジネス・シーンにおいて情報爆発はネガティブなイメージに受け取られることが少なくありません。そうしたなか、ビジネス・インテリジェンス(BI)やデータ・ウェアハウス(DWH)の分野では、これまで管理・分析の対象にしてこなかったものも含め、地球上に流れるあらゆる情報・データを「ビッグデータ(Big Data)」と呼んで、それらをうまく活用することで競争優位の確保やイノベーションの創出につなげようというアプローチが昨年後半あたりからさかんに謳われ始めました。
ビッグデータという呼称はここ最近に登場したわけではなく、例えばネイチャー誌は2008年9月号でビッグデータの特集を組んで紹介しています。BI/DWH分野でここにきて注目が集まっているのは、ビッグデータを効率的に活用するためのテクノロジーがようやく整備され、かつてのような国家レベルの研究所や巨大企業のみならず、一般企業でもその恩恵にあずかれるところまで、対応システム導入の難易度やコストが下がってきたからだと考えられます。
つまり、テクノロジーがまたさらに進歩したことで、今、ビッグデータ活用の“民生転用”が起こっているというわけです(さすがにコモディティ化とまでは言いませんが)。その立役者たるテクノロジーは、テラデータやインフォマティカ、IBMなどのITベンダーや先進ユーザー企業がビッグデータを扱う技術基盤としてこぞって挙げているHadoopです。グーグルの技術論文から着想・開発された、テラバイトからペタバイトに及ぶ大規模データの高速な分散処理を低コストで可能にするHadoopは、現在、国内でも着々と導入事例が増えている最注目技術の1つですが、今後はビッグデータと対になって語られるケースが増えることになるでしょう。なお、IBMの場合はこのHadoopに加えて、同社が7年前から研究を重ねてきたストリーム・コンピューティングというリアルタイム処理技術をビッグデータの活用に応用するというアプローチを打ち出しています(これまた興味深い技術なので、近いうちに稿を改めて)。
医療、気象・災害予測、交通管制、オンライントレーディング、犯罪防止など、ビッグデータの活用例は多岐にわたります。まったく新しいデータを分析対象に加えたり、データ取得の周期を早めたりと(例:日次データを3時間ごとの取得に変更)、むしろ積極的に生み出していく情報爆発こそがビジネス価値創造の泉となり、従来不可能とされていた領域・レベルでの分析が現実のものとなる――このパラダイムの下で今後、どのようなイノベーションが生み出されていくのでしょうか。「情報爆発は価値創造爆発へ」。本格活用の緒についたビッグデータをめぐるベンダーとユーザーの取り組みに注目したいと思います。
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