IBMイベント『Lotusphere Comes to You 2011』直前インタビュー TwitterやFacebookに代表されるソーシャルネットワークサービスの利用が拡大している中、IBM Lotusブランドでもいち早くこの流れに注目し、企業向けの『ソーシャルウェア』を提供している。2011年3月に開催されるイベント『Lotusphere Comes to You 2011』では、組織の壁を超えた協業や、アイデアの顕在化、ノウハウの継承など、IBMが考える次世代コラボレーション製品についての戦略が披露される予定だ。イベントに先がけ、登壇予定の2人に聞いた。
『人と人とが、つながる、広がる、動き出す。』というキャッチフレーズのもと、3月2日に東京、8日に大阪でそれぞれ開催されるIBMのイベント『Lotusphere Comes to You 2011』。このイベントでは、『Lotus Notes/Domino』といった同ブランドの看板ソリューションに加え、次世代コラボレーション基盤として注力しているソーシャルウェア『IBM Lotus Connections』や、リアルタイムなコミュニケーションを促進する『Lotus Sametime』など、Lotusの最新技術と戦略が披露される。
ソーシャルウェア エバンジェリスト
行木 陽子氏
IBMの提案するソーシャルウェアは、これまで特定のチーム内にフォーカスしていたグループウェアを一歩進化させ、より広い領域でのコラボレーションを目指している。"ソーシャルウェア・エバンジェリスト"の肩書きを持ち、今回のイベントに登壇する行木氏は「私たちは、長い間ナレッジマネジメントについて取組んだ結果、各種文書の効率的な共有ができるようになりました。しかし、ここで共有される文書はきちんと作り上げられたものです。完成した文書も重要ですが、その過程での専門家とのやりとりや関係者のディスカッションなども大切なナレッジです。ソーシャルウェアは、組織の壁を越え、個人が持っているナレッジを共有していくことを目指しています」と語る。
企業のM&Aやグローバル化、新興国の発展など、ビジネス環境も変化しており、組織や場所、時間を超えた新しい働き方が求められているというのもソーシャルウェア提供の背景にある。また行木氏は、同社が昨年実施した、人事部門の管理職を対象とした調査(「IBM Global Chief Human Resource Officer Study 2010」)では、「創造性を発揮するリーダーの育成」「ナレッジの共有」「ビジネスのスピードアップ」といった課題が目立ったとし、ソーシャルウェアのニーズの裏付けとした。
常に将来を見据えたテクノロジーを模索しているIBMでは、個人の持つナレッジのデジタル化と共有について5、6年ほど前から"人材プロキシー"というコンセプトのもと検討・開発を進めていた。行木氏は「開発中の製品がアルファ版の時点でも全社で使えるような環境がありますので、自分たちで使ってお客様にも紹介し、改善しながらできあがったのがLotus Connectionsや、Lotus Sametimeです。LotusといえばミドルウエアのLotus Dominoがありますが、これらのツールは新しいコラボレーションの形にチャレンジした成果です」と語る。
Lotus Connectionsは、個人のプロフィール、ブログ、Wiki、コミュニティ、ファイル、タグ付けによる情報の分類など、SNSライクな機能を備えながら、セキュリティ面や可用性、安全性にも配慮されている。これにより、企業や組織をまたいだ意見の吸い上げや、専門家への接触、迅速な商品企画、知恵の伝承といったコラボレーションを支援する。
ソーシャルウェア セールスリーダー
臼井 修氏
今回のイベントの行木氏と臼井氏のセッションでは、Lotus Connections各種機能のデモンストレーションが予定されているが、ほかにも、ソーシャル/コラボレーション関連製品のセッションが展開される。ウェブ上のAPIからIP電話、PBX、モバイルネットワークと連携し、チャット、電話、ビデオ会議など、状況に応じたコミュニケーションができるLotus Sametimeもそのひとつだ。臼井氏は、「スマートフォンなどのモバイルデバイスでからメールやスケジュールを管理できる環境ができていますが、Lotus Sametimeを使うと、どの人がどんな端末でログインしているかわかります。そこで、チャットをするか、電話をかけるか、メールをするか、別の人にコンタクトをとるべきかなどをすぐに判断できます」と紹介した。
また、企業の方向性を示したり、戦略や営業に関する情報から、総務や研修等の情報伝達や手続きまで、公式の情報をトップダウンで伝達する場合などに利用するソリューションには『WebSphere Portal』がある。ソーシャルウェアが組織を超えた"横"の連携を促進するものであるのに対し、WebSphere Portalは、組織としての"縦"の骨格となる。行木氏は、縦と横のコミュニケーションを統合した事例として、ベルリッツインターナショナルを紹介した(事例紹介ページ)。同社は、世界75以上の国と地域に567拠点を展開する語学教育事業を展開する企業。WebSphere PortalとLotus Connectionsを導入し、これまで地域や拠点単位だった人材情報の把握、情報の周知、教育システム、スタッフどうしのつながりが全世界規模まで拡大した。その結果、教材開発のコストやスピードを大きく改善したという。
さらに臼井氏からは、クラウド上で展開するコラボレーションツールであるLotusLiveの説明もあった。LotusLiveのコンセプトは、1つの組織の中だけでなく、会社をまたがって、複数の組織で情報をセキュアな環境で共有するというもの。「現在、あるNPOさんに利用していただいていますが、NPO団体同士や、IBMとのやりとりなどにもLotusLiveを使って資料を共有し、使い方をお伝えしたりしています。また、たとえばパートナー様とIBMとで共催の場合など、複数の会社でセミナーを開催する場合に、講師や場所の手配、資料の印刷などの段取りをエクセルの資料を作って配るのではなく、LotusLive上でひとつのプロジェクトとしてTO DOリストを作って共有するなどして、活用しています」と臼井氏。
今回行木氏と臼井氏に聞いたLotus製品導入のメリットの1つは、人材を最大限に活用できることだ。個人の知識を表に出すことで組織の総合力を底上げし、お互いが助け合う土壌が築かれれば、新製品の開発のスピードアップや人材の育成に活用できる。ソーシャル/コラボレーションツールは、社内だけでなく、顧客との関係性向上やマーケティングにも応用できる可能性を秘めている。
ただし、これらのツールをうまく活用するには、導入企業のスタッフ全員が日常的に使い、情報を集めていく必要がある。顧客企業が導入するハードルはあるのだろうか。行木氏に聞くと「ツール自体の使い方は簡単で、敷居は低いです。でも、やっぱり皆さんすぐには使いません。コミュニケーションツールですので、盛り上げる工夫が必要なのです。弊社の例では、『コラボレーション・カウントダウン』というイントラ上の社内イベントをIT部門が主催し、利用促進のプロモーションを行っています。イベントでは、"コラボ・レイコ(来楽暮玲子)"という架空のキャラクターから『タグをつけてみようよ』などの指令が来て、指令をクリアした人は、顔写真が公開されます。自分の顔がイントラに出ることは滅多にありませんので、社内ではものすごい動機付けになりました。ベルリッツさんでも『顔写真を載せよう運動』などの仕掛けを、KPIを設定してプロモーションをされていました」と説明した。
ツールそのものの使いやすさと利用促進とは別の次元の話であることがわかるエピソードだが、IBMでは、こうした利用促進につながるような導入支援のコンサルティングも行っている。臼井氏は「企業や組織の文化にあった導入方法をおすすめしています。イベントでなくても、週報など、業務の一部に使っていただくとう方法もあります。情報が蓄積すれば、あとから検索するなど、便利に使っていただけるようになります」と説明した。
企業内の新たな人材・ノウハウ発見や、リアルタイムでコラボレーションする技術、モバイル端末対応など、さまざまなトピック披露される『Lotusphere Comes to You 2011』。ターゲットとなる企業について臼井氏に聞くと「地域が分散していたり、海外に展開していたり、拠点はひとつでも外を出歩いている人が多かったり、部門間で連携したい企業など、離れたところにいてもリアルタイムに情報を共有しながら業績を上げていただくためのソリューションを展開できると思っています」とアピールした。
行木氏は「どんなツールを使っているお客様でもアドオンできますので、現状の資産をあきらめてLotusにするというのではなく、お客様の資産を活かしながら活用いただけます」と説明した。最近では他社製品とLotus製品を組み合わせて使っている事例が増えているという。生産性を向上したい管理職や、最新技術を知りたいIT担当者には見逃せないイベントとなりそうだ。