ネットワーク技術の領域には、実体をイメージしにくい用語が少なくない。 特集の最後のパートとして、弾力性のあるインフラを具現化する上で、 これだけは押さえておきたい必須キーワードをまとめて解説する。折川 忠弘 (編集部)
ネットワークの構成変更を効率化する技術や規格をパート3で一覧した(27ページ)。ここではもっと視野を広げ、ネットワークの性能や可用性を向上させる上で、頭に入れておきたいキーワードを解説する。
タグVLAN
物理的に接続されたLAN構成に依存せずに、LAN内に論理的なグループを形成するVLAN技術の1つ。通信時のブロードキャスト範囲を制御するために使われる。
ケーブル上を流れる信号(フレーム)に、「どのVLANに所属するか」という情報をタグとして付与。それによってネットワークの物理実装とは関係なく論理的なLANだけの通信を実現する。従来は、スイッチのポートにVLANのID(識別番号)を割り当てる「ポートVLAN」方式が広く採用されていた。この場合は、ポート数によって自由度が制限される、スイッチをまたがったVLANを形成できないといった課題があった。これを解決するものとしてタグVLANが注目されている。タグの付与方法は「IEEE802.1Q」という規格で標準化している。
IPトンネリング
データ通信時、所定のプロトコルと異なる(一般には上位レイヤーの)プロトコルを使うことをトンネリングと呼ぶ。ここでIP(Internet Protcol)を使うケースがIPトンネリングである。
IPトンネリングによって、物理的に独立したLAN同士をインターネットを介して接続することができる。このため、具体的な実装としてVPN(Virtual Private Network)への適用が広く知られる。マイクロソフトの「PPTP(point-to-point tunneling protocol)」が有名。
現在はシスコ・システムズのIPトンネリング技術「L2F(layer 2 forwarding)」と組み合わせた「L2TP(layer 2 tunneling protocol)」が、標準化団体「IETF」で規格化されている。
GRE
Generic Routing Encapsulationの略。データセンター間などの遠隔拠点同士をまたぐトンネリングで用いるプロトコルの1つで、シスコ・システムズが開発した技術が元になっている。IPトンネリングの項で触れたPPTPなどはレイヤ2(データリンク層)によるものであるのに対し、GREはレイヤ3(ネットワーク層)でトンネリングを可能にする。実際のフローはGREヘッダと呼ぶ情報を付与することで制御する。
より安全で動的な通信ができる(そのための拡張技術も含む)とされることから、OSSのコミュニティなどからの注目が高まっている。
VPLS
Virtual Private LAN Serviceの略で、遠隔間のLAN環境をイーサネット経由でつなぐ「広域イーサネット・サービス」を実現するための技術。エンド・トゥ・エンドでレイヤ2ネットワークの構築を可能とするため、複数の回線を仮想的に束ねて高速化を図るなど、ユーザーの目的に応じて自由なネットワーク網を構築できる。ルーティング情報として「ラベル」と呼ぶ経路情報を付与する「MPLS(Multi-Protocol Label Switching)」を拡張している。
DCB
Data Center Bridgingの略で、データセンター内のトラフィックを円滑に処理するための仕組み。
サーバーへの接続が10Gbpsと広帯域化したのに伴い、スイッチにLANだけではなく、別途FC(ファイバ・チャネル)スイッチを設けていたSANストレージも接続する動きが広がっている。そこで、重要性の増すイーサネットが備えるべき要素を規格化している。
例えば、優先度の異なるトラフィックに対して最低帯域を保証し、優先度の低いトラフィックでも帯域を確保できるようにする。優先度の高いトラフィックが帯域を占有するのを防ぐ。
トラフィック過多により起こるネットワークの輻輳を軽減する仕組みも取り入れる。輻輳が発生した場合、トラフィックの送信元となる端末に輻輳を知らせ、送信過多にならないよう制御してもらう。スイッチの帯域超過を防ぐのに役立つ。
複数のトラフィックをすべて送信せず、優先度に応じて送信を制御することもできる。すべてのトラフィックを送信することで起こる輻輳を回避でき、一方ですべてのトラフィックをまとめて停止させずに済む。
ECMP
Equal Cost Multi Pathの略。ルーター間におけるトラフィックの局所的な集中を防ぎ、複数の回線に負荷を分散する技術。
経路を決めるルーティング用のプロトコルである「OSPF(Open Shortest Path First)」対応のルーターを利用するとき、回線の帯域幅から割り出す「コスト値」が等しい経路が複数存在する場合にトラフィックを均等配分して負荷を分散する。
EVB
Edge Virtual Bridgingの略で、仮想スイッチに集中する処理をハードウェアに引き継ぐことで軽減させる技術。
複数の仮想マシンが物理サーバー上に集約すると、仮想マシンの通信機能を司る仮想スイッチの負荷が高まる。仮想スイッチはソフトウェアであるため、負荷はサーバーのプロセサの負担となり、全体のパフォーマンス低下を招きかねない。そこで仮想スイッチの処理を物理機器に引き継がすことで負荷の軽減を図る。
主に2種の方法がある。「VEPA」(Virtual Ethernet Port Aggregator)は、仮想スイッチの処理をサーバー外部にある物理スイッチに代行させる。「VEB」(Virtual Ethernet Bridge)は、サーバーが備える物理NIC(ネットワークカード)に代行させる。
IEEE802.11ac
IEEE(米国電気電子学会)が標準化を進める次世代無線LAN規格の1つ。スループットが1Gbit/秒を超える“ギガビット無線LAN”を可能とする。現在普及が進むIEEE802.11nのスループットは最大600Mbit/秒であることから約1.7倍の速度向上が見込め、スマートデバイスで大容量データをやり取りできるようになる。
周波数は11nで用いる5GHz帯となるため、11ac規格に準拠するルーターで11nに対応するスマートデバイスなどを利用することも可能。
なお、周波数に60GHz帯を利用し、スループットが1Gbit/秒を超える無線LAN規格「IEEE802.11ad」もある。現在は11ac同様、ドラフト仕様で標準化には至ってない。
LTE
Long Term Evolutionの略。携帯電話で用いる移動通信方式の1つで、これまでNTTドコモが「Super 3G」という名称で推奨してきた。LTEサービスとして、同社の「Xi(クロッシィ)」が有名。欧米でもすでにLTEサービスは提供されている。
これまでの移動通信方式である「W-CDMA」や、W-CDMAを高速化した「HSPA(High Speed Packet Access)」よりも高速なデータ転送を可能とする。Xiの場合、屋外での通信速度は受信時で最大37Mbps、送信時で最大12.5Mbpsとなり、屋内の一部エリアに限り、受信時の通信速度は最大75Mbpsに達する。
次の移動通信方式である第4世代移動通信への移行を控え、LTEは“つなぎ”の方式と捉えられる。しかし技術的には、送受信に用いるアンテナを複数組み合わせて高速化する「MIMO(Multiple Input Multiple Output)」を採用するなど、十分な性能を期待できる。
W-CDMAを「3G」、HSPAを「3.5 G」、第4世代を「4G」と呼ぶことから、LTEは「3.9G」とも呼ばれる。
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ネットワーク環境の高度化を考える時、ベンダー各社の動きを知ることも重要なポイントだ。個別製品に実装される機能もさることながら、一連の製品群に通底する設計思想を理解することも大きなヒントとなる。IT Leadersでは、ベンダー各社の最新動向をとりまとめた記事をWebサイトに別途掲載する予定だ。当該URLはメールマガジン等でお知らせするので、併せて参考にしてほしい。
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