年も新たに、本連載を担当することになりました加藤恭子です! 企業ITの専門誌で「マーケティング」をテーマにするのはなぜ? と違和感を覚える読者もいるかもしれません。でも、マーケティングの発想は、皆さんが活躍されているフィールドでも十分に役立つと思うのです。例えば、ITの価値をユーザーに広めたり、IT部門の存在感を高めるヒントを得たり……。そんな訳で、時々の話題をマーケティングの目線で紹介していきたいと思います。よろしくお願いします!
商品購入には行動様式がある
それにしても、スマートフォンの勢い、凄いですね。先日、ある書店に立ち寄ったら、Androidに関する本がずらっと並んでいました。iPhoneにしても、最新機種のiPhone 4Sが発売となるや、我先に予約しようとする人々が殺到したようです。
ちなみに、4Sのリリース直後には「Siri(シリ)」が大きな話題となりました。「What’s the weather tomorrow?」などと話しかけると、明日の天気を表示する一方で、女性の声で返事もしてくれるという新機能。まだ日本語に対応していないのが残念ですが、ユーザーインタフェースに未来を感じます。
さてさて、iPhoneに限ることなく、新しいものを真っ先に手に入れる人って周りにいませんか? 必ずしも新しい機能を事細かく分析することなく、どちらかというと「出たら買う」タイプの人たちです。
こうした人たちのことをマーケティングの世界ではイノベーター(革新的採用者)と呼びます。イノベーターは新しい商品の動きにとても敏感で、少しくらい未熟な製品やサービスでも使いながら暖かく見守ってくれます。先に触れたiPhone4Sも当初は「電池の持ちが悪い」といったネガティブな情報が駆け巡りました。でも、イノベーターはそこで利用を止めるわけでなく、「どうやったら電池を持たせられるか」と同志と工夫しつつ、アップルによる改善を待ち望む度量の深さがあります。
先駆的なイノベーターに倣うようにして後に続くのが、アーリーアドプター(アーリーアダプター)と呼ばれる人たちです。雑誌などの紹介を見て「これは流行りそうだ」と感じ、新商品を購入する。普及前のかなり早い段階で購買行動に移す点では、イノベーターほどではないにしても「先駆的な」人たちと言えるでしょう。
アーリーアドプターに追随するのがアーリーマジョリティ。一般にこの層が出てくると、商品は普及に差し掛かります。機能改善は緩やかになり、流行に応じて商品やサービスにさまざまな“味付け”がなされていく段階です。
そして流行りが終わり、注目度が下がってから商品を入手するのがラガートです。身近な例を挙げると、地上アナログ放送が終了してからようやく地デジ対応テレビを買う、あるいは「食べるラー油」を最近になって初めて買ったような人たち。このタイミングでは市場は衰退し始めています。テレビは1インチ1万円だった時代が信じられないほど値下がりし、入手困難だった食べるラー油は店に山積みで値引きされています。
先行者には果実がある?
ご参考までに、マーケティングでは「これから流行る」タイミング、すなわちアーリーアドプターによる採用からアーリーマジョリティに移る時期に商品のキャンペーンを打つのが好ましいとされます。あまり早すぎると商品が未熟だったりするので、「機能がイマイチ」とそっぽを向かれるかもしれません。
企業ITに視線を移したとき、皆さんの行動様式はどこに位置付けられますか。多少の不便があっても、それをワクワク楽しみながら先行者ならではの恩恵に浸るイノベーターでしょうか? 試行錯誤するイノベーターの声を聞きつつ普及前の製品を使い始めるアーリーアドプターや、機能や価格がこなれて商品の選択肢が増えてから検討するアーリーマジョリティかもしれません。まさか衰退し始めた技術を採用するラガートじゃないですよね?
これまでの情報システムの取り組みを観察し、そこで得られたことを振り返って見ると面白い発見があるかもしれません。大きな果実って、えてして小さな芽の時から青田買いしておかないと手に入らないもの。それって、企業ITにも通用するような気がするんですが、いかがでしょう?
- ビーコミ 加藤 恭子
- IT雑誌記者を経験した後、ERPやCRMのベンダーの広報・マーケティングの担当者を経て、現在は企業のマーケティングや広報活動をコンサルティング・実務支援するビーコミを起業して事業を展開中。立教大学兼任講師も務める
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