社団法人 企業情報化協会(IT協会)が2012年2月15〜16日に開催した「第27回 IT戦略総合大会」。会場では、ITを活用した経営革新に臨み、顕著な成果を上げた企業に贈る「IT賞」(表参照)の表彰式と記念講演があり、来場者の注目を集めた。ここでは「IT総合賞」を受賞したキヤノン、大成建設、ヤマトホールディングスの講演の概要を紹介する。いずれも、各社の改革を牽引してきた立役者が登壇した。
[キヤノン]
開発・生産プロセスの抜本的改革
キヤノンは、「グローバル優良グループ構想」という旗印の下、1996年から15年間にわたりサプライチェーンや開発・生産体制の効率化、ITガバナンスの強化に熱心に取り組んできた。
2006年から開始した「バリューチェーン革新」では、量産が見込まれる製品を短期間で商品化するため、開発・生産プロセスを抜本的に見直した。また、2007年からは「サプライチェーン革新」に着手。両者を管理するシステムを相互接続することで業務を効率化し、競争力を高める原動力とした。
現在は、これらの経営基盤を定着させ、成果を出す活動に余念がない。荒木誠 情報通信システム本部長は、「本質はインフラ整備ではなく、PDCAサイクルを加速し収益直結型の業務を支えることにある。今後も革新を継続させる取り組みに徹する」と強調した。
[大成建設とヤマトHD]
先進性と継続性に高い評価
経営のスピード化・スリム化を目指して、2001年から10年以上にわたって改革に邁進してきた大成建設。マスターデータ管理や業務プロセスの可視化で社内のIT基盤を固める一方、取引先や商社を巻き込みながらSaaS方式のコラボレーション環境の整備も進めてきた。「目下の活路は海外。世界中、どこからでも安全かつ迅速に業務遂行できる環境を整える」(柄登志彦 情報企画部長)。
ヤマトホールディングスは、宅急便サービスの高度化に向けて基幹システム「NEKO」の継続的改善に取り組んできた。電子マネー決済やスマートフォン活用など先進的なITも貪欲に取り入れてきた経緯がある。「次なる“8NEKO”では顧客起点をもっと前進させ、セールスドライバーが今どこにいるかを顧客が把握できるようにする。併せて、スマートデバイスの高度活用も視野にある」(小佐野豪績 執行役員)と今後の意欲を語った。 (緒方)
表1:IT賞を受賞した10社の概要
企業名 | 代表的な取り組み |
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キヤノン | 設計から製造までのプロセスをITで効率化。グループ全体でITによる業務革新に取り組み、投資効率を向上させた。グローバル企業としてITガバナンスのあり方も模範的 |
大成建設 | 施主や協力会社をつなぐ情報共有システム「作業所Net」を構築。自社内の利用に留まらず、取引先や同業他社も巻き込んだ業務改革を推進した |
ヤマトホールディングス | 長期にわたる先進的なITの取り組みで事業をけん引。宅配事業を支える基幹システムは、モバイルや電子マネー対応を率先して行い、サービス向上に大きく貢献した |
企業名 | 代表的な取り組み |
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NEC | 約400億円を投じて、主要グループ会社の情報システムを全面刷新。業務プロセスのシンプル化/標準化やコードの統一といった難易度の高い作業を着実に実施した |
企業名 | 代表的な取り組み |
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三井住友銀行 | 老朽化したメインフレームをオープン系システムに刷新。コスト削減のほか、余剰リソースを活用して新規の事務受託ビジネスを獲得する基盤も構築した |
企業名 | 代表的な取り組み |
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NTTドコモ | 東日本大震災発生後、携帯電話の復旧予定情報をWebサイト上に早期に公開した。機転を利かせ、既存の情報収集基盤を使って公開情報を集約した |
企業名 | 代表的な取り組み |
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東日本電信電話(NTT東日本) 東京支店 |
広告や宣伝などに用いるデジタルサイネージを社内広報用として導入。90拠点の従業員に対して情報発信を効率化した。デジタルサイネージの意外な用途を提起 |
小島プレス工業 | EDIシステムを基軸に、RFIDを用いた自動検収から即時決済までが可能なシステムを開発。将来的にはサプライチェーンにおける取引決済の即時化も見込める |
企業名 | 代表的な取り組み |
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大同火災海上保険 | システム部門と経営が一体となり、ITガバナンスを確立。経営陣のシステムのリスクに対する理解度が向上したほか、システムの中長期ロードマップを描きやすくした |
東京海上日動システムズ | 経営情報の開示や自主的な取り組みの促進、脱成果主義の人事評価制度構築などを実施。情報システム部門のモチベーション向上を強力に推進した |