米国の著述家、ニコラス G.カー(Nicholas George Car)氏が2003年に書いたITの本質と変化を世に問う「IT Doesn’t Matter」を読んでから、筆者は彼のファンになった。時のメジャーな動きにインパクトを与え、予見的な示唆が気に入っている。
「ネットバカ」が指摘する負の側面
そのニコラス・カー氏が2010年に書いたのが『The Shallows ~What the Internet is doing to our brains』である(邦題は『ネット・バカ─インターネットが私たちの脳にしていること』、篠儀直子訳、青土社)。
タイトルのThe Shallowsは、思考の浅薄さを指している。主旨はネットに依存することによって脳の知的活動やクリエイティビティが薄れ、シナプスやニューロンの構造が影響を受けて、覚えたり深く思考したりしにくくなるという指摘である。
The Shallowsを著わす頃、実はカー氏本人がどっぷりとネットに浸かっていた。RSSリーダーで最新情報を取り、ブログを書き、TwitterもFacebookもSkypeも使う。一方で本を書くという集中を要する作業が、なかなか出来ないことに違和感を抱いていたという。
そんな最中に、カー氏は通信環境の整ったボストンから携帯電話も通じないコロラドの山中に引っ越しをする。数ヵ月はネットの禁断症状に悩まされるものの、やがて集中して学術論文を読み通したり文章を長時間書き続けたりすることができるようになった。
自ら検証したネットの影響が何世代にも亘った時、人間の脳に与える影響やその活動によって作られる社会とか文化といったものへの危惧を問うている。そして著述が終わる頃、また以前のようにネットの環境を楽しんでいる自分に気付き、「これなしで生きていけるかどうか、正直自信がない」とも言っている。
日本でも「IT断食のすすめ」
2011年11月には日本で『IT断食のすすめ』という本が発刊された。ローランド・ベルガーの遠藤巧会長とドリーム・アーツの山本孝昭社長の共著である。
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