IntelやAppleを生んだベンチャーキャピタルの父
2012年7月26日(木)山谷 正己(米Just Skill 社長)
複数の投資家から資金を募り、新興事業に投資するベンチャーキャピタル(VC)が、米国経済における存在感をますます高めている。その一方で、多くのVCは有望なベンチャーを探して米国外に進出を始めた。
米国ベンチャーキャピタル協会の調査によると、ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けている企業の2010年における総売上高は、米国のGDPの21%を占めた(同年のGDPは14兆5000億ドル)。このように国の経済を力強く下支えしているVCの半数以上にあたる約370社は、シリコンバレーおよびサンフランシスコ地区を本拠にしている(写真1〜2)。VCという業態が誕生したのも当地である。今回はまず、「ベンチャーキャピタルの父」と呼ばれる2人について触れよう。
ベンチャー支援、その源流
アーサー・ロック氏は、1951年にハーバード大学でMBAを取得した後、ウォールストリートの投資銀行に就職した。1957年、投資家としての腕を磨いていた彼を、ロバート・ノイス氏やゴードン・ムーア氏ら8人の技術者が訪ねた。勤務先であるShockley Semiconductorを飛び出し、半導体の新会社を設立するための資金集めに協力を求めるためだった。
ロック氏は、彼らをシャーマン・フェアチャイルド氏に引き合わせた。航空機やカメラメーカーを傘下に持つ一大グループを率いるとともに、IBMの筆頭株主でもあったフェアチャイルド氏は、事業案を評価し150万ドルを投資。その結果、Fairchild Semiconductorが生まれた。ノイス氏らは「Traitorous Eight 8人の裏切り者」と呼ばれた(詳しくは本誌5月号の本コラムを参照)。
1961年、カリフォルニアに移住したロック氏は、大学の先輩にあたるトーマス・デイビス氏とともに投資会社Davis & Rockを設立。大学時代の学友などから合計350万ドルの資金を集め、新たな投資ビジネスを始めた。複数の出資者から資金を募って新興事業に投資するという、それまでなかった形式の事業を、両氏は「ベンチャーキャピタル」と名付けた。
Davis & Rockは8年間で15社に投資した。その1社がScientific Data Systems(SDS)である。1961年に25万7000ドルを投資したSDSは1969年、9億9000万ドルという高値でXeroxに買収された。これにより、Davis & Rockは460万ドルを手に入れた。その後、2人は得た資金を山分けし、別の道を歩み始めた。
Arthur Rock & Associatesを設立したロック氏は、再びノイス氏とムーア氏の相談を受けた。彼らはFairchild社を飛び出し、新たな集積回路の会社を設立する資金を必要としていた。ロック氏はすぐさま250万ドルの資金を集め、自身も150万ドルを投資した。こうして生まれたのがIntelである。1978年にはAppleに5万7600ドルを投資。その3年後、Appleが株を公開して投資価値は1400万ドルになった。
このほか、数々のベンチャー企業を支援してきたロック氏は現在86歳。ビジネスの最前線からは退いたものの、今も健在である。サンフランシスコ在住だが、冬場はコロラドの別荘で過ごす。一方のデイビス氏は、スタンフォード大学と共同でMayfield Fundを設立。投資活動に専念し、1989年に77歳で亡くなった。
アメフト選手が転身した例も
ロック氏とデイビス氏以降、その成功を手本にVCが次々と生まれた。特にネットバブルで成功した起業家がベンチャーキャピタリストとなり、自分の経験を糧に後継者を育成・支援するケースが増えた。Sun Microsystemsの共同創立者であるアンディ・ベクトルシャイム氏やビル・ジョイ氏、Netscapeの共同創立者マーク・アンドリーセン、eBayの創業者ピエール・オミディヤ氏などがそれである(詳細は本誌3月号参照)。
変わったところでは、スポーツ選手がVCに転身した例がある。スティーブ・ヤング氏だ。同氏は1987年、名門アメリカンフットボールチームの49ersに入団。左利きのクォーターバックとして、1995年のスーパーボールでMVPを受賞するなど大活躍した。そのスーパースターは1999年に引退後、ベンチャー支援という第2の人生を歩み始めた。2001年にSerenson Capital、2007年にHunts-man Gay Global Capitalを共同設立。スポーツで手にした富と決断力を生かし、起業家の指導にあたっている。
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