私が土木の道を歩んだのは、父方と母方、それぞれの叔父の影響が大きいんです。私がまだ幼かった頃、我が家に立ち寄ってはダムや発電所の建設といったスケールの大きな話をしてくれた。そんな仕事にいつしか憧れるようになって、高校時代にはすでに将来の進路を決めていました。
私が土木の道を歩んだのは、父方と母方、それぞれの叔父の影響が大きいんです。私がまだ幼かった頃、我が家に立ち寄ってはダムや発電所の建設といったスケールの大きな話をしてくれた。そんな仕事にいつしか憧れるようになって、高校時代にはすでに将来の進路を決めていました。
その夢がかなって建設会社に就職し、最初の20年は技術研究などの仕事に没頭していました。大学から専門は一貫して「土」の世界で、土質力学とか地盤工学とかの専門書や論文を読み漁る日々。もともと本は好きでしたけど、今にして思えば、当時のテーマはかなり偏ってましたね(笑)。
転機が訪れたのは2003年のこと。中谷巌氏が塾頭を務める多摩大学の「40歳代CEO育成講座」に2期生として会社から行かせてもらうことになったんです。次世代リーダーの育成を目的としたこのコースの基本メニューは読書。宗教、社会学、哲学、国際情勢、外交など、いわゆるリベラルアーツの課題図書を読み、著者を招いた席上で議論を重ねるんです。中身の濃い本を週2冊以上読むのは大変ですが、とても貴重な1年を過ごしました。
その頃に読んだものは、いずれも強く印象に残っているのですが、まず1冊挙げよ、ということであれば田坂広志氏の「人生の成功とは何か」です。人生における真の成功とは…お金や地位や名声といった短絡的なものではなく、生き甲斐のある一生を過ごすための成功観を訥々と説いているんです。
実は育成講座を終えてしばらくし、仕事がらみで田坂先生にお会いする機会がありました。それは私が大病を患ってやっと復活したタイミングでもあった。そのことを打ち明けると、人の生き様について示唆に富む話をいろいろと聞かせてくれて、ますます惹かれたんです。今なお、仕事で悩んだり壁に当たったりすると読み返しますが、必ず勇気を与えてくれる存在です。
病気を機に人が生きる意味を考えるようになった影響もあるのか、最近もっとも読んでいるのは禅の思想に関連する本かな。もっと広い意味で言えば、世の中の理(ことわり)について考えを巡らせたい。例えば、『道元の思想』(頼住光子)などを手にとりましたが、なかなか奥深いテーマです。もし、ご興味がある方がいれば、ヘルマン・ヘッセの『シッダールタ』は取っつきやすい作品で、お薦めですよ。
人生観とか、後世に何を残せるかなどを考える上では、歴史書も好きな分野です。『徳川家康』(山岡荘八)、『ローマ人の物語』(塩野七生)などは本当に読み応えがあります。ストーリーもさることながら、ベースにある「人の生き方」に心が動くんです。人が何かを成し遂げるのに必要なものを突き詰めると、家康だろうがローマ人だろうが関係ない。そこにある普遍的なメッセージを糧として暮らしていきたいなあと。
生真面目な本が並んで、かなり堅物っぽく思われますかね? そんな一方では、昔から大のプロレス好きで、「週刊プロレス」とか、その筋の専門誌は今なお欠かさず目を通していることも白状しておきましょうか(笑)。
シッダールタ[文庫]
ヘルマン・ヘッセ著、高橋健二訳
ISBN: 978-4102001110
新潮社
420円
徳川家康(1) [文庫]
山岡荘八著
ISBN: 978-4061950238
講談社
777円
- 石黒 健氏
- 前田建設工業 CDSプロジェクト室 室長
- 1984年4月、前田建設工業に入社。土木設計部や技術研究所にて耐震工学やダム工学、地盤工学(液状化や軟弱地盤問題)など、主として技術開発業務に従事する。2006年3月から社内ベンチャー「CDSプロジェクト」のマネージャとしてセルラーデータシステム(CDS)の研究開発と事業化を推進する。2011年4月から現職
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