優れたアイデアはリラックスした環境で生まれる、とはよく言われることであるが、実際のところはどうだろう。今回は、合理的なアイデアの発想法について考えてみる。
立て続けに仕事を行うこと、不眠不休で仕事に没頭することは必ずしも良い結果に繋がらない。ウィークデイに働いた後は、週末に家族や友人と休暇を楽しんでこそ、また頑張ろうという気になるものだ。仕事量が多いから優れた実績を出せるというものではない。根を詰めれば良い企画を思い付くというものでもない。クリエイティブな職に就く方やナレッジワークに従事する方は、思い当たる節があるのではないだろうか。
脳の働きの観点からもこのことは言える。ある1つのテーマに集中することは一見効率が良いよう見えるが、緊張した状態が続くと良い発想が出て来なくなったり、物事の上達速度が遅れたりする事態が起こってくる。そんな時は、意識的にそのテーマを離れ、全く関係のないテーマに取り組むようにすることで、“意図的な弛緩状態”をつくるのが有効である。
筆者は難易度の高い原稿や資料を依頼された時、とりあえず一定期間そのテーマに集中したら、他の業務に移行して何日か放っておく。そうすると無意識のうちに、テーマに関連するインプットが脳内で蓄積・整理され、ある時、ふっと良いアイデアがひらめく。そんな日にそのレポートを仕上げるのである。頭の中にストーリーができているから、書きながらあれこれ考える無駄が省ける。行儀よく連続的にこなしていくよりも、一旦思考を休止した方が、結果的に早くゴールに辿りつけるのである。
この方法は、問題の整理・体系化、課題解決手法の洗い出し、ビジネスモデルの発案、といった創造力を要求される業務に向いていると思われる。限られた人的資源や時間のなかで、可能性のある全てのパターンを分析するのは不可能だ。だから「ひらめき」を味方につけた方が良い。
「ひらめき」のプロセス
「ひらめき」とはどのようなプロセスで生まれるかを研究した本のひとつに、ジェームス.W.ヤング著「アイデアのつくり方」がある。いまなお広告代理店の方に読まれる、数十年に及ぶロングセラーである。この本で示されるアイデアづくりの手順とは少し分かり易くいうと、情報収集→理解・分析→思考休止→アイデアの創出→チェックの5段階である。
ここでは思考休止、すなわちインプットした情報を「寝かせる」行為が1つのポイントとなる。事前に可能な限り情報を多方面から収集し、咀嚼することが前提となる。異なる属性の情報を組み合わせるなどしてアイデアを発案しておくのも良いだろう。しかし、ある程度理解・分析ができたら、思考することを完全に止める。この意図的な休止状態の時も、脳は完全に休んでいるのでなく、潜在意識で活動を続け、有益な情報の取捨選択、整理、体系化を自動的に行っている。こうして緊張から解放されて一定時間が経過すると、ふっと良いアイデアが浮かんでくるのである。休止といっても寝たり、休んだりする必要はない。それまで考えていたことや取り組んでいたことと違うジャンルの活動をすれば良い。
意図的な思考休止による効果に着目して、この仕組みを社内に取り入れる企業もある。従業員にイノベーションの発案を期待して、遊びの時間を設ける例などがある。就業時間の20%を自分の業務以外の分野に充てることを義務化するGoogleの「20%ルール」はあまりにも有名だ。
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