シリコンバレーは、多民族国家である米国でも、とりわけダイバーシティ(多様性)に富む地域だ。異なる文化を受容し融合することが、世界に通用する製品やサービスを生み出す活動源となっている。

シリコンバレーは、サンフランシスコ湾が内陸部に入り込んだ両岸一帯の地域の名称である(写真1)。大小40の都市が含まれ、面積は4628平方キロメートル。三多摩地区を含めた東京都の約2倍の広さである。50年ほど前までは、近郊農業地帯だったという。小高い山で囲まれていることからサンタクララバレーと呼ばれていた。思い返せば、筆者が移り住んだ30年前でも、あちこちに果樹園や野菜、トウモロコシ畑が残っていた。
1960年代後半から、シリコンを基盤とした半導体産業が盛んになり、今の名称で呼ばれるようになった。現在、半導体製品の製造拠点はニューメキシコ州やオレゴン州といった過疎地、さらには台湾をはじめとする東南アジアに移ったが、新しいチップの開発・設計は今なお当地で盛んである。その後、1980年代はPC、1990年代はインターネットの時代になって、ソフトウェア産業が主体となったことから、ソフトウェアバレーと呼ぶべきだとの声も聞かれる。
今回は、そんなシリコンバレーの今を数字で見ていきたい。当地の現状調査と将来計画の策定を担う非営利組織「ジョイントベンチャー・シリコンバレー」が、2013年1月に発表した最新の調査結果と、筆者が社長を務めるジャストスキルの調査をもとにお伝えしよう。
優秀な人材求めてビザ給付枠を拡大
シリコンバレーの就業人口は約138万人。約30万人は、エンジニアリングと科学分野の仕事に携わっており、その64%は外国生まれである。米国における外国生まれの就業者の割合が26%なので、当地で活躍する外国生まれの技術者がいかに多いかが分かる。
外国人が米国で働くためには、「H-1B」と呼ぶ就業ビザを取得する必要がある。法律が定めるH-1Bの給付数は年間6万5000。別枠で、米国の大学院を卒業した外国人に対して2万人分を給付する。しかしここ数年、定数を超えて給付している(図1)。海外の人材に対する需要が高いからである。その傾向はシリコンバレーのIT企業に顕著だ。H-1B取得者の多くはIT関連の技術者であり、ほとんどがシリコンバレーの企業に務めている。2012年、H-1Bの取得者数が多かった上位11社は表1の通り。青文字で示した6社は、インド企業の米国法人だ。本国の人材を米国支社で雇用するために、H-1Bビザを利用している。


それでもなお、シリコンバレーの企業は人材不足を嘆いている。そうした声を受けて2013年1月、共和・民主両党の4議員が「Immigration Innovation Act of 2013」を議会に提出した。H-1Bビザの年間交付数を6万5000から11万5000に増やすとともに、需要の増大に応じて最大30万人まで追加可能にする法案だ。
だがシリコンバレーの失業率は7.5%である。日本と異なり、米国では短期アルバイトに従事した人を失業者として計上するとはいえ、低いとは言えない数字だ。「なのになぜ、わざわざ国外から人材を?」といぶかしく思う向きもあろう。理由は単純。新しい産業を支える人材が不足したままでは、経済に影響するからだ。
加えてスキルの高い技術者は高額所得者、すなわち高額納税者であり、そうした人材を国内に呼び込めば、税収を増やせる。その分で失業者を食べさせていこう─。そんな米国流の発想が働いている。多額の税金を投じて、スキルを持たない失業者をなんとか教育しようとする日本式とは全く異なる。
好景気だからこそ厳しい住宅事情も
海外の人材調達熱の高まりは、多民族国家である米国でも、群を抜いた多様性をシリコンバレーにもたらした。約290万人という同地区の人口構成比は白人が37%、アジア系が30%、ヒスパニック系が27%、その他が6%である。この多様性が、シリコンバレーの活力となっている。様々な文化的背景を持った人々が知恵を出し合って開発した製品・サービスだからこそ、世界のどの国でも通用するのだ。
人種の多様さは街を歩いていても一目瞭然。東側地区にベトナム街、西側地区に中華街を擁するほか、インドや欧州、中南米、アフリカ料理を供するレストランが立ち並ぶ。エチオピア料理店だけでも10軒ある。回転寿司店やラーメン屋も人気が高い。居ながらにして世界各地のありとあらゆる食を楽しめる。
反面、住宅事情は厳しい。人口の増加、高額所得者の増加に伴って、住宅の値段が高騰している。土地付き3LDKの戸建て住宅の場合、平均価格は56万ドルと全米で最も高い。同じ条件での全米平均価格は、20万ドルである。
VCによる投資額は全米の4割占める
海外からの人口流入が進む一方で、ベンチャー機運がますます高まっている。高校生や大学生による起業が増えていることは、本誌2012年9月号でお伝えしたとおりである。2008年のリーマンショックで少々落ち込んだベンチャーキャピタル(VC)による新興企業への投資も、再び回復しつつある(図2)。

2012年、VCがシリコンバレー企業に対して実施した投資総額は103億ドル。米国全体の265億ドルの39%を占めた計算だ。投資先の分野別内訳を 図3に示す。この調査ではITサービスやメディア、エンタテインメントをそれぞれ独立した分野として扱っている。しかし、これらはすべてソフトウェアを使って実現するビジネスである。このため、これらを合算した54%がソフトウェア分野への投資であると見てよいだろう。

- 現地レポート─新型コロナで一変したシリコンバレーの経済・社会・生活(2020/04/06)
- 2017年のITトレンドを占う5つのキーワード(2017/01/13)
- スタートアップの結末、ベンチャービジネスは必ずしも成功せず(2016/08/08)
- サービスエコノミーはシェアリングからトラストへ、非正規雇用の”ギグエコノミー”が拡大(2016/06/14)
- シリコンバレーはバブルから安定成長へ?! ベンチャー投資は全米の4割強を占めるも伸びは前年比7.5%増(2016/05/06)