様々な場面で有益なビジネスアイデアが求められているが、既存アイデアの拡張や従来手法の組み合わせだけでそれを創り上げる事は難しい。特に今日のビジネスシーンは市場競争が激しく、これまでと違った価値観での思考や大胆な発想が望まれている。そこで今回は「発想の転換」をテーマに幾つかの事例を紐解いてみる。
「柔軟な発想」「固定観念を捨てよ」「常識を疑え」「パラダイムシフト」など今日のビジネスは、発想の転換を促すキーワードに事欠かない。そして、そのような活動によってイノベーションが起こり、新商品が生み出され、私達の仕事や生活に影響を及ぼしているのは周知の通りだ。
そのように発想を転換した例の1つに、残り時間表示型の歩行者用信号が挙げられる。青信号では点滅までの残り時間を、赤信号では青になるまで時間をインジケータで表示するもので、都心を中心に徐々に増えている。信号の変わり目では、駆け込み横断やフライングが起こりがちだが、残り時間が分かるようになると、歩行者のストレスが軽減する。実際に事故の予防効果も上がっているそうだ。
駆け込み横断を防止するなら、まず思い付くのは「管理強化」だろう。警備員をつけるとか、罰則規定を設けるといった類だ。そうではなく、歩行者のストレスを減らす点に着眼したのは、まさに発想の転換といえる。
似た例として、ポルトガルで試みられた「Dancing Traffic Light」という信号機が話題になっている。歩行者マークといえば静止しているのがお決まりだが、それが動いたり踊ったりする。実は、近くに設えた専用ブースの中で実際に人が踊る姿をキャプチャして表示しており、毎回違う動きが楽しめる。歩行者は赤信号でつい立ち止まり、見入ってしまうのだそうだ。
わずか3分のシステム処理
もう一例。ある企業の物流部門が、配送ルートを最適化するシステムの導入を計画した。物流業では、最適なルートで配車計画を立てることは重要な業務だ。発注情報の確定から配車手配までの猶予は1時間。一般社員がやると、物流コストが上がる、指定時間に配送できない、といった問題が出るので、経験豊富な熟練者が任に当たっていた。しかし、それでは熟練者が出張や病気で休むことができない。そのため、ルート最適化システムを導入することにしたのだ。
システムによる最適化処理は1時間で終わる。それを一般社員が最終化すれば良いのだが、なかなか満足行く結果にならない。システムが導き出す最適ルートの精度にばらつきがあり、そのままでは使えない場合があるからだ。一般社員が即座に複雑な修正処理を行うのは不可能だった。そのため、熟練者のノウハウをシステム化するのはやはり困難という結論に至り、導入を諦めかけた。
しかし、最終的にこのプロジェクトは成功した。ポイントは「開始後3分でシステムの処理を止める」ようにした点だ。最適化計算では通常、一定時間を経ると精度向上率が急激に落ちる。そのシステムの場合も、最初の3分で最適解に近い水準の結果を一気に作成できた。残りの1時間弱は、膨大な計算処理をしても精度は少ししか上がらない。そこで、システム処理を途中で止めて、残り時間で最終化するようにしたのである。
1時間弱は、一般社員が修正処理をするにしても十分な時間だった。たかだか3分の処理のためにシステム導入するのは普通は考えにくい。しかし、そのように発想を転換したことで、結果的に目的を果たすことができたのである。
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