[真のグローバルリーダーになるために]

プロローグ─グローバルリーダーになるためには:連載小説『真のグローバルリーダーになるために』第1回

2015年1月9日(金)海野 惠一(スウィングバイ 代表取締役社長)

日本企業の海外事業展開を成功に導くには、真のグローバルリーダーが不可欠だ。今回から、今求められているグローバルリーダー像についての、連載小説形式で具体的かつ実践的に紹介する。主人公は、香港、ベトナム、インドネシア、中国を舞台に奮闘するIT企業の営業担当者だ。競争相手は中国企業と欧米企業、そして現地企業だが、熾烈なアジアマーケットでは、現在の日本企業の体制では勝てない。主人公が、いかにしてグローバルリーダーへと成長し、戦っていくのか。

アジア全域で日本、中国、欧米の企業による混戦状態に

 北京鳳凰信息科技有限公司は、わずか5年で売り上げを3倍にしてきた企業だ。現在の年商は3億米ドルで、中国のICT業界では中堅の新興企業である。中国の新興企業の特色として、毎年倍々ゲームの成長をしてきている企業が多い(図1)。そのため営業活動への投資も中途半端ではない。もちろん倒産する企業が、成功する企業の何十倍も多いが、国の規模が大きいので、成功する企業の数だけが目立っている。

図1:倍々ゲームを続ける中国の新興企業。グラフは小米の例図1:倍々ゲームを続ける中国の新興企業。グラフは小米の例
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図2:アジア全域が、日本、中国、欧米の各企業による混戦状態にある図2:アジア全域が、日本、中国、欧米の各企業による混戦状態にある
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 日本企業はここ数年、こうした中国企業と東南アジアでバッティングするケースが多く、苦戦している。特に日本企業は、日中の領土問題に伴う政治摩擦のために、中国を避けて東南アジアにビジネスの軸足を移したいと考えている。だが、東南アジアのどこに行っても、中国企業や欧米企業との競合が起こってきており、日本企業が苦戦している状況は変わらない(図2)。

 鉄道がいい例だ。中国鉄道は原価割れした提案をアジア随所で出してきていて、それに対抗できる企業が日本にも欧米にもいない。結果、世界のどこにいっても、高速鉄道の入札はほとんどが中国鉄道によって占められている。

 彼らは国家がバックにいるので、入札案件が赤字でも、周辺の不動産などの事業で収益を上げようとする。鉄道敷設とか鉄道車両において全く採算が取れなくても構わないのだ。同様のことが、鉄道だけではなく、あらゆる業種業態において起こっている。ICT産業も例外ではなく、アジアのあちこちで、日本企業と中国/欧米企業の混戦状態になっている。

 そうした中、北京鳳凰は来年度に1億5000万米ドルの売り上げ増を考えており、中国国内だけでなく、東南アジアでのマーケットシェア獲得に躍起になっている。5割増しの売り上げには当然それなりの販促費を計上してきている。一方、日本ITCソリューションが見込む次年度の売り上げ増は5%。中国企業に対抗する予算も人材も桁違いに少ない。

 佐々木は、こうした状況を香港に行く前から把握していた。上司の三森には言わないが、彼自身も三森同様に全く勝ち目がないと思っている。だが、お互いに、そうした思惑は一切話をしていない。

 日本ICTソリューションの国際事業部長である劉は、せめて香港市場の来年度の売り上げ予算を「30%はアップするべきだ」と主張していたが、三森事業部長は頑として彼の意見を受け付けなかった。その背景には日本企業独特の予算に対する達成義務がある。達成できないと三森の将来がなくなってしまう。

 なお、通常の入札では、数社が参加するのが普通だが、本編ではストーリーを分かりやすくするために、北京鳳凰と日本ITCソリューションの一騎打ちに設定している。アジアのIT企業で最も強い企業は、香港最大の企業集団・長江実業グループのPCCW Limited社だが、ここもあえて、競合企業を中国企業に設定している。また、インドの企業も、一大勢力になっているが、今回の香港での入札には関与させていない。

 また、地下鉄の総合システムということで、香港鉄路有限公司を想定しているが、あくまでもここでも仮想であることに留意していただきたい。また、このような金額が大きな入札には、半年とか1年前から入札要件書を作成するために、事前準備のためにヒアリングを設けるのが一般的だ。だがそれも、本編では省略している。

 (以下、次回に続く)

海野惠一の目

 日本企業はこれまで、グローバルビジネスとは言いながら、実際には現地での日系企業を相手にしたビジネスがほとんどだった。現地企業とか欧米企業との競合ビジネスを展開してこなかった。最近は、日本企業による外国企業の買収も盛んになってきているが、買収後の企業運営や連携のための人材が極端に不足している。そのため海外企業を買収しても、相手企業に人材を送り出せない。

 本連載の主人公が務めるのはICT企業だ。だが、新規受注のための戦略とその展開は、ITそのもののノウハウよりも、競合にどう対抗するか、顧客にどう根回しするかといったスキルのほうが必要である。日本企業が本格的に海外に出ていくためには、今までにない人材が要求されることになる。次回移行、「グローバルリーダーとは何か?」について、一般的な定義や本来のあるべき姿について述べながら、物語を展開していく。

筆者プロフィール

海野惠一(うんの けいいち)
スウィグバイ代表取締役社長。2001年からアクセンチュアの代表取締役を務め、同社顧問を経て2005年3月退任。2004年スウィングバイを設立し、代表取締役社長に就任。2007年大連市星海友誼賞受賞。経営者・経営幹部に対してグローバルネゴシエーターの育成研修を実施するほか、中国・東南アジアでの事業推進支援と事業代行に携わる。著書に『これからの対中国ビジネス』(日中出版)、『日本はアジアのリーダーになれるか』(ファーストプレス)がある。

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