IT部門に欠かせない5つの内製機能のうち「パートナー対応能力」について詳しく解説する。IT戦略遂行にメリハリをつける上で、アウトソーシングを積極的に検討する企業は増えているが、“自立的な”よい関係を形成できている例は必ずしも多くない。その背景を考えることを1つの材料に、パートナーとの協業のあり方や、その時に必要となるIT部門の素養について考える。
昨今、IT関連業務の全てを内製でまかない、アウトソースは一切していないというケースは極めて希です。つまり、多くの企業において、何らかの形で協力を仰いでいる外部のパートナー企業が存在しています。
ここで質問を1つ。「アウトソースがうまくいっている」とはどんな状況を指すのでしょうか。「委託した業務を大きな失敗もなく無難にこなしてくれている 」あるいは「安価に社外のリソースを使えている」ということでしょうか?
私の考えは少し違います。以下に、私なりに考える「アウトソースをうまく活用できている」という状態を説明しながら、今回のポイントに言及していきます。
“自立的アウトソーシング”とは
アウトソースを引き受けるパートナーが力を備え、ITサービスのセグメントごとに、円熟した支援を適正価格で提供できるようになってきました。こうした状況下、コモディティ・サービス(インフラ構築、アプリケーション構築、データセンター運用、コールセンター運用など)をIT部門の内製のみで対処するのはコスト高にも繋がり、むしろ積極的にアウトソースを検討するのが主流になっています。
その際、何を内製するか、何をアウトソースするか、きちんと定義しておくことが肝要です。皆さんに「そんなの当然」と言われそうですが、現実には、アウトソース業務をしっかり定義することなくパートナーにお願いしている事例が少なくありません。つまりは、「業務の丸投げ」という状態です。
何が起こるでしょうか。丸投げ → 社内IT部門とアウトソーサーとの間での遂行事項確認なし → 定常業務がアウトソーサーの都合で行われる → 定型業務の標準化、文書化が進まない → 業務工数の非均一化によるコストの増大…。悪循環に陥るのが目に見えています。
例えばデータセンターの運用をアウトソースする場合を考えましょう。
- 業務をサービスカタログ化すると共に、各業務のプロセスを定義し、その内容を両社で確認する
- 事前に「課題・リスク」を列挙し、その際の対策を両社で確認する
- 障害が発生した際の連絡項目とエスカレーションプロセスを両社で確認する
- プロセスを変更する際の承認フローを作成し、両社が常に業務の実情を把握できるようにする
- ガバナンスや会議体の運用基準を定め、レビューする際のKPIや月次レポートのフォーマットを決定しておく
列挙すればきりがありませんが、アウトソース・パートナーに業務を依頼する際に、最低でも徹底しておかなければならない事柄は多々あります。お互いが共通の認識の上で業務を遂行し、相互にチェックし、生産性や質、サイクルタイムといったものを恒常的に改善していく姿が、私の定義する「アウトソースをうまく活用できている」状況です。
「社内IT部門は何をアウトソースしているか、その業務の詳細まで理解している。一方でアウトソーサーは委託元であるIT部門との責任範囲を明確に理解した上で業務を遂行している」──。こうした姿を私は“自立型アウトソーシング”と呼んでいます。
皆さんがアウトソースされている業務に関してはいかがでしょうか。うまく機能しているかどうか、今一度チェックしてみることをお勧めします。繰り返しになりますが、パートナーに何をいくらで頼んでいるかを常に詳細まで明確にし、会議体を通して双方が恒常的な改善に取り組むことができれば「自立型アウトソーシング」は、より質の高いものになるはずです。
地域別パートナーの属性・特徴解析機能
昨今はグローバリゼーションがIT部門の1つのテーマとなり、「外資」のアウトソーシング・パートナー企業からのアプローチも多くなっていると推察します。オフショアにこだわらず、国内パートナー企業の「ニアショア」もスコープに入れている方もいることでしょう。
この時、「オフショアかニアショアか」「オフショアの業務定義とその拠点」はどのように決めていらっしゃるのでしょうか?「英語を話せるスタッフが少ないので、まずはニアショアで行ければ…」との判定基準を今なおよく耳にします。確かに数年前までは、まずはニアショアでアウトソース業務管理に慣れ、その後に本格的にオフショアに踏み切ってコストをさらに下げる」というやり方が目立っていました。
しかし多くの企業が経験を積む中で、ニアショアで実践した「アウトソーシング業務とその形態」をそのままオフショアに移行するのは難しいという壁に直面しました。「ひとまずニアショア、その後にオフショアでコストを圧縮」という図式は成り立たない。背景には、「ニアショア=日本国内での業務運用はプロセス記述と委託内容が詳細に決まっていなくても日本人の器用さである程度対処してくれるが、オフショアはそうはいかない」という現実があるのです。
ニアショアがオフショアの前段階にはならないとすれば、両者をどう位置付ければよいでしょうか。社内システム/アプリケーションなどに関する従業員からの問い合わせを受けるヘルプデスクをアウトソーシングするケースを考えてみましょう。アウトソースを検討するにあたってRFPを出し、オフショア案、ニアショア案を含め各種の提案が寄せられたとします。この時、何を持ってオフショアかニアショアかを決定するか。コスト? それとも品質?
つい二者択一で考えてしまいがちですが、ここに柔軟な発想がほしいところです。例えば、コストと品質のバランスを考えて、「オフショア-ニアショア・ハイブリッドモデル」は成り立たないだろうかというアイデア。つまりオフショアの良い所とニアショアの良い所を併せ持ったモデルの構築です。
ヘルプデスクには色々な問い合わせが入ります。大別するなら、ある一定のスキルと知識がないと答えられない類の問い合わせ(独自開発した個別システムに関する問い合わせなど)と、それ以外の問い合わせです。後者に含まれるのは、「パスワード忘れへの対処法」「Officeソフトの操作方法」「障害発生時の案内と問い合わせ対応」など。国内国外を問わずヘルプデスク業務を提供している企業であれば一般的に備えているスキルで十分対応できるものです。
私の経験に照らせば、問い合わせ件数の大半を占めるのは後者。ごく希に高度な問い合わせがあるからといって、スキルも時給も高い日本国内のヘルプデスクメンバーで一律に対処しようというのが経済的かつ合理的なアプローチではないことは明らかでしょう。単純にオフショア、ニアショアのどちらかを考えるのではなく、アウトソーシング・パートナーの各国の属性や特性を鑑みた上でIT部門に合ったモデルを形成することを考えたいものです。
地域(特にアジア、東欧など)のマクロ経済、各国別のサービス提供内容と強みを理解し、各国の得意な領域とその相対的な人件費の情報があれば、「オフショアとニアショア」「オフショアの業務とその拠点」等の合理的なモデルを他国間縦断で形成、構築することも可能です。このようなスキルを持った要員を「さらにグローバル化する企業」のIT部門として育成、確保する必要があると考えます。
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