この10年でデータセンターファシリティのありさまが大きく変化した。ITシステムの進展に省電力といった環境要件も加わり、データセンターの設計が根底から変わっていった。現在は変革が一段落して、課題の中心はよりきめ細かな最適化の実現にある。ここでは、目的にマッチしたデータセンター選定を行うにあたってユーザー企業が押さえておくべき、データセンターファシリティの最新潮流を解説する。
要件とコストのバランスが変化
かつて、メインフレーム時代のデータセンターは高信頼性や堅牢性が第一で、効率やコスト削減については「求められる信頼性/堅牢性/セキュリティレベルを満たしたうえで、可能な範囲で」という一種の努力目標にとどまっていた。いわば、「金に糸目は付けない」という性格の、きわめて重要かつ特殊なファシリティであると位置づけられていた。
銀行などの金融機関の基幹業務システムに関しては、現在でもこうした事情は特段変化していない。だが一方で、数的には圧倒的に多数を占めるまでに成長した、いわゆる“ネット系ビジネス”のためのサーバー群では、金融機関と同等レベルの信頼性までは要求していないし、運用コストに関しても同等レベルの支出を想定してはいない。
昔のデータセンターはきわめて高レベルの信頼性を要求する限られたユーザーが対象だった。それがITの進展と普及によってデータセンターの利用者もより一般的なビジネスユーザーまで拡大し、その結果、信頼性などの要件とコストのバランスも以前とは様変わりしている。当然ながら、データセンター事業者側ではこうしたニーズの変化および多様化への対応に注力している。
コスト削減といっても、単純に品質を下げて「安かろう悪かろう」という形にすることを望んでいるユーザーはさほど多くはない。基本的には、「品質はより高く、コストはより低く」という相対的な高コストパフォーマンスの実現が望まれているわけだ。それに応えるために、データセンター側では効率の改善によって無駄なコストを極限まで省いていく必要がある。これは、データセンターファシリティの設計・建設といった初期コストから日々の運用監視・管理のランニングコストまで多岐にわたる取り組みとなっている。
電力コスト削減に取り組むデータセンター
データセンターの運用コストの中でも特に比率が高いのが電力コストだ。日本特有の事情として、海外諸国に比べて電力品質が高い一方で相対的に高コストという面もあるが、そもそも電力効率の向上に対する取り組みは米国などで先行して始まっており、世界的に共通する問題認識ではある。
日本では2011年3月11日の東日本大震災の影響もあった。震災直後には不足する給電量に対応するために首都圏でも計画停電などが実施されたが、企業や産業用の電力供給は最終的に確保されたため、データセンターが直接稼働停止に追い込まれる事態は起こらなかった。
とはいえ、このとき「『将来にわたって必要な分だけの高品質な電力がいつでも確実に供給される』ことを前提には置けない」という認識が広がったことは確かだ。震災を機に自家発電設備や燃料備蓄量の見直しを行った事業者も少なくない。そうした対策に先立ち、まずは日々の運用で電力消費量そのものを大きく削減できれば非常時に備えた対策の負担も軽減できることになる。
先進データセンターのPUE値はほぼ限界レベルに
データセンターの電力効率向上の取り組みに関しては、一般にPUE(Power Usage Eff ectiveness)指標が用いられる。PUEは、データセンターの総電力消費量がIT機器の電力消費量に対してどのくらいの量かを図るためのもので、IT機器が消費した分以外に一切電力が使われていない場合、1.0になる。
事業者にはこのPUE1.0の状態を極限とし、運用努力でいかに1.0に近づけていくかが問われるわけだが、ここで問題になるのは冷却のための空調システムの電力消費量だ。館内の照明などはそもそも莫大な電力を消費するわけでもないので、不要な時にはこまめに消灯するといった努力で削減したとしても、その節約による寄与には限界がある。
一方で、IT機器を冷却するための空調システムの電力消費量は、場合によってはIT機器自体が消費する電力量と同等レベルにまで達することもあり、データセンターの運用コストの大きな部分を占めている。ここを節約できればPUE値を大幅に引き下げられるし、運用コストも下がるため、さまざまな取り組みがなされてきた。
日本国内でも、通常運転時には空調設備を一切運転せず、外気による自然冷却だけで運用することを前提とした設計とすることで、PUE値のドラスティックな引き下げを実現したデータセンターが相次いで稼働開始した。よく知られているのは、さくらインターネットが運営する石狩データセンター(2011年11月開所)や、IDCフロンティアの白河データセンター(2012年10月竣工)などだ(写真1・2)。
これらは世界でも最先端レベルの取り組みを行っており、PUE値はIDCフロンティアの白河データセンターでは設計時点の目標値として1.2以下、さくらインターネットの石狩データセンターでは運用開始後の実績値で1.1台といった驚異的な効率を達成している (写真3)。
PUE1.1や1.2といった数値は事実上、IT機器が消費する以外の電力は消費しない、いわば究極の高効率であり、もはやデータセンター側で実現できるこれ以上の効率向上策は存在しえないとまで言えるレベルだ。このように、データセンターの高効率化に関しては、「すでにベストプラクティスは出尽くした」と言う声もあり、一種の踊り場的な状況にある。
データセンター側でのコストバランスの見直し
外気冷却を全面的に活用した高効率データセンターは、設備の特性上、郊外型の大規模なファシリティに限って適用できる高効率化手法だと位置づけられる。ただし、先に触れた石狩データセンターや白河データセンターのような先進データセンターの実績を踏まえて、同様の高効率データセンターが次々建設され、主流となってきたのかと言えば、現実は必ずしもそうではない。そもそも、首都圏を中心に都市型データセンターの需要は根強く、郊外型のデータセンターへのシフトが急激に進行する状況ではないうえに、高効率を実現するためのコストが無視できないという要因もある。
効率を高めるのは、そもそもは運用コストを下げるためだったはずだが、極限を追求するとなると逆にコストがかさむという事情もある。外気冷却を全面的に採り入れるためには、それに見合った構造の建物を建設する必要があるなど、初期コストが増加することは避けられない。
東日本大震災の直後には、需給の逼迫から国内の電力料金がさらに引き上げられる可能性も取り沙汰されたが、現実には急激な値上げは実施されておらず、現状では高効率を実現するためのコスト増を電力消費量の削減で埋め合わせることは難しい状況だ。
こうした事情について、データセンターの建築に豊富な経験を持つ大成建設に尋ねたところ、「やはり、PUEをあるレベル以下に引き下げるのはとても難しい」との答えが返ってきた。上述のように、すでにベストプラクティスはほぼ出そろっており、その意味では「どうすればPUE値1.1台を達成できるのかは分かっているのだが、そこに要するコストとのバランスを考えると、現状でPUEを極限まで引き下げることにのみ注力するのは投資対効果という点で若干の疑問がある」(大成建設 設計本部 設備設計第一部長 出野昭彦氏)とのことだ。
こうした状況を踏まえて同社は、今後、しばらくは無理のない範囲でPUEを引き下げつつ、総合的な投資バランスが維持された設計を望む事業者が主流を占めるだろうと見ている。
純粋にファシリティ視点でデータセンターを見た場合、PUEが極限まで低い高効率データセンターというのは大きな差別化ポイントではある。しかしながら、データセンター事業者のビジネス観点では、PUEを下げるために必要な投資額に見合う収益が得られるかどうかが問題で、現状ではなかなか難しいと言わざるをえない。また、データセンターを選定するユーザーの側としても、国内データセンターファシリティの信頼性・可用性基準であるJDCCファシリティスタンダードのティア1~4レベルを要件にすることはあっても、PUE値自体に着目することはまれだろう。
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