全日本空輸(ANA)がシステム刷新を加速させている。2013年春に国内線予約、2015年4月には国際線予約の両システムを、それぞれ約25年ぶりに全面刷新した。それもつかの間、今度は運行管理や整備系などの業務系システムの大半を、2019年までにプライベートクラウドに移行する。運用の効率化や拡張性の確保、迅速なシステム開発、そしてTCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)の削減などを目指す。同社にPaaS環境を従量課金制で提供する日立製作所が2015年7月14日に発表した。
全日本空輸(ANA)が、整備系など業務システムのプライベートクラウドへの移行を決めた背景には、経営環境の激変がある。羽田空港国際線発着枠の拡大や訪日観光客の増加などの追い風が吹く半面、新幹線の延伸や格安航空会社(LCC)の台頭、円安の進行や燃油価格高止まりといった向かい風も強い。
全社的には現在、2011年度からの5年間で累計1360億円のコスト削減に取り組んでおり、ITコストの見直しは欠かせない。一方で顧客サービスの高度化などシステム開発力の向上も喫緊の課題だ。
導入を決めたクラウドは日立製作所が構築・運用する。ANAはOSやミドルウェアを含めて利用した分だけの費用を支払う。ハードウェアに加えてソフトウェアを含めた点で、プライベートなPaaS(Platform as a Service)だといえる。
ただプライベートPaaSなので、必要なシステム資源を即座に必要なだけ調達できるとか、きめ細かく使用量を監視して料金を下げるとかいった点では制約がある。パブリッククラウドに比べると伸縮の自在さ(elasticity)は低くコスト面でも高くなると見られる。だが、稼働対象が業務システムであること、オンプレミスに比べればITインフラの運用・管理に要する業務負荷やコストの低減を図れることなどを考えると、合理的な選択だろう。
PaaSのハードウェアにはブレードサーバー「BladeSymphony」やストレージク装置「Hitachi Virtual Storage Platform」を、運用管理には「JP1」といった日立製品を主に使う。しかし日立製品で統一するわけではない。
例えばOSやミドルウェアはANAが利用を推進するOSS(Open Source Software)を使うほか、日本HPや日本オラクルなどの製品も利用する。ANAは今後、各業務部門が個別に構築・運用しているシステムの大半をプライベートPaaS上に移行・集約するが、それらのシステムでは例えばオラクルのDBMSを使っているからだ。
ちなみにANAは、基幹システムである国内線予約をオンプレミスで新規に構築し、国際線予約にはスペインのアマデウスが提供するクラウドサービス「Altea」を採用している(関連記事)。大した意味はないが、今回のプライベートクラウドを含めると3パターンのITインフラを利用することになる。
なお、日立製作所による同種のプライベートクラウドの導入事例としてはほかに、大同生命保険(関連記事)や日本たばこ産業(日立による紹介記事)などがある。
ユーザー名 | 全日本空輸(ANA) |
業種 | 航空運輸 |
導入システム | 運行管理や整備系など大半の業務システム |
導入目的 | ITコストの見直しと、顧客向けサービスの高度化などに向けたシステム開発力の向上 |
主な利用製品 | プライベートPaaS(Platform as a Service)。日立製作所が構築・運用し、ANAはソフトウェアを含めた利用分の費用を支払う。「BladeSymphony」や「Hitachi Virtual Storage Platform」「JP1」といった日立製品のほか、OSS(Open Source Software)や日本HP/日本オラクル製品などを使用する |