[ザ・プロジェクト]

アジアのITブリッジ拠点を担う「沖縄クラウドネットワーク」

“IT立県”を目指して進む、日本最南端のICTプロジェクト

2015年10月26日(月)河原 潤(IT Leaders編集部)

1998年に掲げたマルチメディアアイランド構想が17年の時を経て“クラウドアイランド”に向かう。「沖縄21世紀ビジョン」の下、沖縄県は、県内のデータセンターを仮想的に統合し沖縄、本州、アジアの拠点をクラウド基盤/ネットワークで結ぶ「おきなわSmart Hub構想」「沖縄クラウドネットワーク」の具現化を推し進めている。本稿では、同構想に至る道のりと現在のアクションをレポートする。

マルチメディアアイランド構想から始まったIT産業振興

 最初に沖縄県の“IT立県”に向けた取り組みの歴史をざっと振り返ってみる。端緒は1998年9月策定の沖縄県マルチメディアアイランド構想だ。これは21世紀を目前に控え、沖縄が新世紀の産業創出と高度情報通信社会の先行的モデルを形成することを目指すというもの。情報サービス(コールセンター)、コンテンツ制作(エンターテインメント)、ソフト開発(GIS)の3軸からなる産業集積戦略が掲げられた。

 21世紀に入って2002年4月、同構想をベースに法制化した沖縄振興特別措置法の施行がスタート。3次にわたる情報通信産業振興計画が推進された。その結果、コールセンター業種については日本有数の集積地として認知が広がり、生産額規模が同県の情報通信産業全体の約2割である約770億円(2011年度)にまで成長。雇用比率では約6割を同業種が占め、同県のIT人材の雇用拡大に大きく貢献することとなった。

沖縄21世紀ビジョンに基づく「おきなわSmart Hub構想」

 沖縄県は、上述のコールセンターの認知・発展に加えて、コンテンツやソフトウェアの受託開発、また人件費やコミュニケーションスキルなどへの評価からビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)業種も伸長するなどの成果を得る。そして2010年代に入り、情報通信分野における、これまでの取り組みの集大成となるアクションの青写真が描かれ始める。2011年3月の東日本大震災発生以降、国内の震災リスク懸念が増大する中で、BCP(事業継続計画)/DR(災害復旧)の観点から同時被災の可能性の少ない沖縄に注目が注がれたタイミングでもある。

 アクションの原典は、2012年5月に県が策定した2021年までの中長期ビジョン「沖縄21世紀ビジョン/同基本計画」だ。ここでは、沖縄が日本とアジアを結ぶ「ITブリッジ」の拠点として機能し、国内外に評価される産業の量的拡大と高付加価値化に戦略的に取り組むことが掲げられた。

 そして、情報通信関連産業、すなわちIT産業を観光に並ぶリーディング産業として位置づけ継続的な発展を図るため、沖縄21世紀ビジョンの情報通信分野に特化した戦略として2013年3月に「おきなわSmart Hub構想」を策定。10年後の沖縄のあるべき姿として、広く国内外から企業・人材・知識が集積したうえで、情報通信関連産業が新たな価値創造に貢献し発展する「アジア有数の国際情報通信ハブ(=Smart Hub)」の形成を目指すこととなった。

IT企業やDC事業者にとっての沖縄の立地メリット

 Smart Hub構想を具現化すべく、県は、IT企業やデータセンター事業者の誘致をはじめとするIT産業の振興に力を注いできた。促進の好材料となるのが、(1)BCP/DRの観点からの地理的な好環境、(2)海底光ケーブルの整備による国際通信ネットワークの完成、(3)各種行政支援施策による低コスト立地、といったメリットだ。

写真1:沖縄県 商工労働部 情報産業振興課 情報・金融産業振興班 班長 大城勇人氏

 (1)については、「本州とはプレートが異なり、かつ、震度5強の地震が発生したことがない地域」(沖縄県 商工労働部 情報産業振興課 情報・金融産業振興班 班長 大城勇人氏、写真1)という、リスク分散拠点としての立地優位性がある。

 (2)については、アジア情報通信ハブ形成促進事業として、シンガポール、香港、首都圏を結ぶ海底光ケーブルを沖縄に陸揚げする作業が進行中だ。完了すれば、4時間以内でアジアの主要都市にアクセスできる沖縄が上述したようなアジアのITブリッジ拠点として機能することになる。その際、すでに沖縄から台湾経由で香港に接続中のGIX回線や九州に陸揚げされている回線を活用することで、通信ネットワーク環境の冗長化も図る予定だ。(図1)。

図1:海底光ケーブルの整備による国際通信ネットワークのイメージ図(出典:沖縄県商工労働部情報産業振興課「2014-2015 情報通信産業立地ガイド」)

 (3)では、経済金融活性化特区(名護市)をはじめとする各種の税制優遇措置を利用して首都圏や都市部では実現できない低コストでの進出が可能な点がアピールされている。

 本島中央部に位置するうるま市の沖縄IT津梁(しんりょう)パークは、上述のメリットに魅力を感じた企業が集まる産業集積の成果である。名称にある津梁は日本とアジアの架け橋を意味し、国内外の情報通信関連産業の一大拠点の形成を目指す情報産業集積プロジェクトだ。最初の建物が開設されたのが2009年で、2015年6月現在で26社が入居し約1,600人が就業している。

●Next:「沖縄クラウドネットワーク」が目指すもの

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
バックナンバー
ザ・プロジェクト一覧へ
関連キーワード

沖縄県 / データセンター / 自治体 / 電子行政 / コールセンター / コンタクトセンター / Schneider Electric / DCIM / 地方創生 / 那覇市 / シンガポール / アジア / BPO / 浦添市 / 名護市 / SDN / OpenStack / 産学官連携 / 国頭郡

関連記事

トピックス

[Sponsored]

アジアのITブリッジ拠点を担う「沖縄クラウドネットワーク」1998年に掲げたマルチメディアアイランド構想が17年の時を経て“クラウドアイランド”に向かう。「沖縄21世紀ビジョン」の下、沖縄県は、県内のデータセンターを仮想的に統合し沖縄、本州、アジアの拠点をクラウド基盤/ネットワークで結ぶ「おきなわSmart Hub構想」「沖縄クラウドネットワーク」の具現化を推し進めている。本稿では、同構想に至る道のりと現在のアクションをレポートする。

PAGE TOP