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BI活用でグローバル拠点の課題を可視化―八千代工業の取り組み

2015年11月24日(火)杉田 悟(IT Leaders編集部)

グローバルに生産拠点を構える製造業にとって、各拠点を跨いだ可視化は、経営上の重要課題となっている。環境の変化が早く、情勢が刻々と変わる現代において、各拠点の状況をスピーディーに可視化するシステムは、経営判断に大きなアドバンテージを与えるからだ。ここに紹介する八千代工業(本社:埼玉県狭山市)は、BI(Business Intelligence)ツールを用いてそのアドバンテージを得ることに成功している。BIベンダーのマイクロストラテジーが2015年11月12日に虎の門ヒルズで開催した「MicroStrategy Symposium」で、その経緯が明らかにされた。

 八千代工業は、自動車部品の生産や軽自動車本体の受託生産を担う、本田技研工業(以下、ホンダ)の子会社だ。20ある生産拠点のうち13拠点を海外に置く、早くからグローバルシフトを取ってきた企業だ。かつて同社には、グローバルシフトを取っているが故の悩みがあった。それが経営判断のための情報可視化に、どうしても時間が掛かってしまうことだった。

 2010年、リーマンショックの影響を引きずり厳しい事業環境にあった八千代工業は、競争の激しい自動車業界を生き抜いていくために、経済状況など様々な環境の変化やグローバル化など、企業を取り巻く状況を素早く察知し、スピーディーな対応が必要と考えていた。そのためには、経営に必要な情報をタイムリーに提供して、スピーディーな意思決定を支援する「可視化の仕組み」が必要だった。

 ところが当時の八千代工業では、国内外の拠点ごとにExcelやWordを駆使した「ハンドメイド」の資料を、メールで本社宛に送付するという方式を取っていた(図1)。本社では毎回、メールで送られてきたばらばらの形式の資料をひとつにまとめて分析するという作業を余儀なくされていた。そのため可視化に時間がかかり、経営判断が遅れるという状況が続いていた。

図1:BI導入前のグローバルデータの収集環境
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 そこでIT部門(現在のBPR推進部)では、ダッシュボードを作成できるBIツールを導入してスピーディーな可視化を実現しようと考えた。各拠点の源流(生産現場)からの正確な情報をリアルタイムで収集し、多角的に分析して経営者が様々な切り口で経営判断が行える環境を作ろうというのだ(図2)。そのために選ばれたのがマイクロストラテジーだった。

図2:BI導入によって実現を目指したグローバルデータの収集環境
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 マイクロストラテジーは、本社を米国に置く独立系のBI専業ベンダー。ビッグデータ前夜の2007年、大手独立系BIベンダーであったハイペリオン、BO(ビジネスオブジェクツ)、コグノスの3社がそれぞれ米オラクル、独SAP、米IBMに買収された。当時の大手BIベンダーの中で唯一生き残ったのがマイクロストラテジーだった。

 同社は企業買収をせず、徹底した自社開発路線を敷いてきた。「現在BI製品に用いられている多くの技術は、マイクロストラテジーが開発したものがベースになっている」(マイクロストラテジー・ジャパン 印藤公洋社長)という。

ダッシュボードを苦労して作り上げる

 ホンダの専務から八千代工業の社長に就任した当時の加藤正彰氏は、経営に対して厳しい一方で、東日本大震災の折に「生産設備を止めてもITは止めるな」というほど、情報の重要性を誰よりも理解していた経営者だったという。

写真1:八千代工業管理本部BRP推進本部の小島幸雄部長

 「BI導入の最初の関門は、この加藤元社長が納得のいくダッシュボードを作成することだった」と管理本部BRP推進部の小島幸雄部長は語る。まずはマイクロストラテジーの協力でダッシュボードの雛形を作成、これを経営層に見せて、厳しい指摘を受けながら徐々に改修していくという方法を取った。

 加藤元社長からは「いきなり細かい情報は見ない」「トレンドが見えない」「シグナルがない」「目標管理がない」といった指摘が次々とされ、これを一つずつクリアしていくことでダッシュボードが徐々に出来上がっていった。「実に手戻しの多い作業だった」という。

 海外現地法人の経営層や本社の経営企画、会計責任者も参加した会議で様々な項目の「物差し」を決めていき、最終的に固まったダッシュボードは、各拠点のリアルタイムな情報が一元的に把握でき、容易な切り口からの様々な分析が行えるというものだった。問題が起こっている拠点は赤色のアラートで示し、一目でわかるようにした。拠点をクリックすると、どのラインに問題が起こっているかまでがわかる。

 このBIIツールの導入目的を実現するためには、「4つの解決しなければならない課題があった」(小島氏)。それが①グローバルでの利用を意識したICTインフラの構築、②モバイル利用を意識したICTインフラの構築、③源流からデータを収集する仕組みの構築、④導入後に社内外の環境変化に柔軟に対応できる運営体制の構築だ。

 ①と②の課題を解決するため、稼働インフラにクラウドセンターを活用した。当時マイクロストラテジーのクラウド版はまだ発売されていなかったため、クラウドセンターのサーバーに製品をインストールして各拠点にクラウド提供することにした。これによりモバイル環境構築のための投資および運用要員を抑制しながら、グローバルに対応した24時間の運用体制を整えることができた。

 この時のクラウドセンターのシステムは、BIツール用のアプリケーションサーバー、BIの情報源となるSQLサーバー用のデータベースサーバーという2台構成だった。データベースサーバーには、異なるフォーマットのデータをデータベース(DB)に送り込むためにETL(Extract Transform Load)ツールもインストールされていた。

 ③の課題を解決するにあたっては、現場の手間をむやみに増やすことのないよう、BIのためだけのデータ入力を行わないことを前提にした。そこで、Excelで作られている既存の帳票データを活かして収集を行うことにした。従来のように、各拠点でExcelデータを一度加工してからDBに送り込んでいたのでは「源流からのデータの鮮度が落ちてしまう」。そこで帳票データをグローバルで標準化し、保管場所を特定するなどルールを徹底した。実際にデータを引っ張ってくるところにデータ転送ツールを仕込むことで、鮮度の高い源流データをBIに反映させる仕組みを構築した。

 具体的には、属性に応じた2つの転送方式を用意して、クラウドセンターのETLツールにデータを送り込んだ。各拠点の基幹システムからのデータは、RDBMS(リレーショナルデータベースマネジメントシステム)にアクセスするための標準インターフェースであるODBC接続で転送した。一方、基幹システムと連携できないExcelベースの統一帳票はCSVにし、FTP通信でETLツールに転送することにした。2方式のデータをETLツールで加工し、DBに送り込むという方法が取られた(図3)。

図3:グローバルデータの収集方法
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 ④の課題は、いかにBIを使いこなせる社内人材を育てるかが解決のポイントとなった。BI導入時、運用体制としては情報システム担当の2名のみだった。まずはこの2名がマイクロストラテジーの「スキルアップ研修」を受けてスキルを向上させた。しかし、この2名だけでは十分な運用体制は敷けない。そこでこの2名が講師となって社内研修を行い、スキル保持者の数を増やしていった。運用要員だけでなく、ユーザー部門からも社内研修に参加させ、ユーザー部門にコンテンツの作成、改廃できる人材を確保することができた。

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