[海外動向]
「破壊者」と呼ばれる新興企業、斬新な発想とビジネスモデルで存在感を示す
2015年12月15日(火)川上 潤司(IT Leaders編集部)
ITを巧みに活用し、ユーザー指向の事業モデルで新規参入する企業が、米国を中心に存在感を示している。実際には、どのような企業がどのようなビジネスを展開しているのか。ここでは、米メディア大手「CNBC」が公表したリストに基づき、この3年間の主要プレーヤーを紹介する。
これまでの業界秩序や商習慣にとらわれることなく、斬新なビジネスモデルを市場に持ち込んで、あっという間に顧客を獲得して急成長する──。そんなプレーヤーを、最近は“Disruptor”と呼ぶことが多くなった。IT関連のセミナーなどで耳目にする機会もとみに増えている。
Diruptとは元来、破壊する、崩壊させる、といった意味を持つ英語だが、「既存事業に対する“破壊者”」というよりも、むしろ「スマートなサービスの創設者」と受け止める向きもある。多くの場合、それを支えてるのは、ITの巧みな利活用と、ユーザーが思わず唸るような使い勝手や利便性の追求である。アイデアを元にVC(ベンチャーキャピタル)などから巨額な資金を募り、瞬く間にビジネスを拡大させていくケースも少なくない。
世間からDisruptorと認知されている企業の顔ぶれとは実際にどんなものなのか。1つの参考材料として、ここでは、米ニュースメディア大手「CNBC」が2013年から毎年公表している「Disruptor50」のリストを紹介しよう。2014年からは、選考者によってランキングも付けられている。2015年版の上位10社について、事業概要と共に示したのが表1。また、当記事の最後にある表2には、2013~2015年の社名リストを抜粋して掲示した。
すべてIT銘柄という訳ではないが、「オンデマンド」「シェアリングエコノミー」などと呼ばれる事業モデルをベースにしている企業が目立つ。ITやビジネス関連のイベント、あるいはメディア報道でも、たびたび登場する社名が多いので記憶にとどめておいてほしい。もし、自社の事業ドメインにスタートアップが新規参入してくるとしたら、どんな可能性があるか。あるいは、自ら新規事業を興すとしたら、どんなアプローチがあるか。それらに考えを巡らせる上でも参考になるだろう。
表1:米メディアCNBCが公表した「Disruotors50」(2015年)の上位10社の概要(米CNBCが発表したリストを元に編集部が作成)
社名(URL) | ビジネス概要 | 業界 | 設立 | |
1 | Moderna Therapeutics | 「messegeRNA」と呼ぶリボ核酸の操作によってタンパク質を合成する技術を保有。癌などの病気治療に期待を集める。英アストラゼネカなどと提携 | バイオ | 2011年 |
2 | SpaceX | ロケットや宇宙船の開発。PayPalの前身企業を設立し、テスラ・モーターズのCEOとして知られるイーロン・マスク氏が関わるスタートアップ | 宇宙 | 2002年 |
3 | Bloom Energy | 「Bloom Box」と呼ぶ小型の燃料電池セルを開発。国内ではソフトバンクの折半出資によって、日本法人が設立されている | エネルギー | 2001年 |
4 | Uber | スマホアプリと併せてタクシー配車サービスを展開。各国で既存業者からの反発が強く、今や“Disruptors”の代名詞的存在になっている | タクシー | 2009年 |
5 | Airbnb | 宿泊施設の提供者と希望者をマッチングさせるサービスで成長。いわゆる“民泊”をクローズアップさせ、Uberと共に“Disruptors”として話題に上がる | 宿泊 | 2008年 |
6 | Dropbox | オンラインストレージの代表的存在でクラウドの利便性を世に訴求した。ビジネス向けにも事業を拡大し様々なユーザー層を獲得している | ITサービス | 2007年 |
7 | Palantir Tech | 高度なデータマイニング技術によって不正を検知。多種多様なソースを短時間に統合しシナリオを導き出すノウハウに強み。政府機関とも深く協働する | ITサービス | 2004年 |
8 | TransferWise | 英国発のスタートアップで個人を対象とした海外送金サービスを提供。手数料負担を大幅に引き下げるものとして注目を集めている | 金融 | 2010年 |
9 | Slack | チャットサービスを提供。後発ながら、シンプルかつ素早くコミュニケーション/コラボレーションを図れる使い勝手が評価されユーザーを急拡大している | ITサービス | 2014年 |
10 | Warby Parker | オシャレで高品質なメガネを低価格で提供。オンラインや自宅で試着できるなどユニークな事業モデルでファンを拡大している | ファッション | 2010年 |
もちろん、こうしたプレーヤーのすべてが順風満帆に邁進しているわけではない。例えば、毎年のリストに顔を出しているQuirky(ものづくり関連)は、2015年9月に、米連邦破産法11条に基づく倒産手続処理を申請した。それでも似たようなスタートアップが次々登場するのがまた興味深い。
※米CNBCが公表した2013~2015年それぞれの「Disruptor50」について、詳細な情報は以下を参照されたい。なお、2013年のリストのみ社名アルファベット順となっている。
- 2013年 http://www.cnbc.com/cnbc-list-of-disruptors/
- 2014年 http://www.cnbc.com/2014/06/17/cnbc-disruptor-50.html
- 2015年 http://www.cnbc.com/2015/05/12/cnbc-disruptor-50.html
表2:米メディアCNBCが公表した「Disruptors50」(2013年~2015年)の社名一覧(米CNBCが発表したリストを元に編集部が作成)