ITは企業の成長をドライブしたり、あらたな事業を創出したりするポテンシャルを備えているが、実務の現場においては、そんな期待とはほど遠い実態も散見される。元凶をたどると、強い「統制管理思考」で運営しているシステム部門があることに突き当たる。今回はそんなテーマで考えてみたい。
日本企業におけるコンピュータ化の始まりは金融や証券、気象予測など「計算」が目的だった。1960年頃には高級言語のFORTRAN(開発はIBM)やCOBOL(開発はCODASYL)が登場し、大手を中心に一般企業も技術計算や管理部門の業務効率化のために導入を始めた。管理部門の典型的な計算業務は給与計算業務であり、会計・経理業務だった。それらのシステムは管理部門の社員が使う部門システムあったために、人事・給与システムはすなわち人事部システムだった。
1990年ごろになると、企業のコンピュータの活用方法は大きく変化した。その大きな変化はネットワークと端末(パソコン)によってもたらされた。その後、ネットワークは企業内からインターネットに拡張され、端末はパソコンからタブレットやスマートフォンへと多様化した。誰もが日常的にそれぞれの仕事の役割を果たすためにコンピュータを活用するようになったのだ。
その変化の中でも、給与計算はともかく人事システムは人事部のシステムであり続けた。筆者が事業部門からシステム部門の統括として異動した2000年代初め、人事システムはまだ人事部システムだった。事業部門の管理職は人材の育成計画にも最適な配置計画にも人事データが必要である。その都度、必要なデータと用途を人事部に申請し、出力してもらっていた。
事業部門では日常的に使いたいからデータを表計算ソフトに落とし込み、事業部門には人事マスターが多重化していくことになる。本来、人事システムは人事部のシステムではなく、全社で活用されるべき社員マスターデータシステムである。筆者がそれをどうしたかは推察いただくとして、なぜ人事システムは変化しなかったのか?
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