[真のグローバルリーダーになるために]

【第46回】英語と専門性、仕事ができるの3要素は必要条件でしかない

2016年10月28日(金)海野 惠一(スウィングバイ 代表取締役社長)

香港の鉄道カードシステムの案件は無事、日本ITCソリューションが落札することができた。その後、課長の佐々木は、パートナーとなった北京鳳凰との打ち合わせのため2回北京を訪問した。そんな折、高橋社長から食事に招待される。苑田専務と三森事業部長が同席するなかで佐々木は、今回の受注成功の要因を社長に説明することになる。

 第一に、日本人は持っている情報量がかなり狭いので、欧米人や中国人の経営者とコミュニケーションする際、会話そのものに入っていけるだけの知識を持っていません。仮にそうした情報を持っていたとしても、議論をする習慣がありません。これは、日本の新聞が日本語で書かれているからだと思います。

 新聞社は、海外の情報を精査・選択し絶対に正しいものだけを日本語に翻訳して“情報”として流しています。世界情報について日本人は、まるで井戸の中から空を見ているようなことしか分からないのです。しかも選別された正しい情報だとして、新聞の情報を疑う習慣がないので、情報の正否を議論したりする習慣が日本人にはありません。今回も北京鳳凰の蘇総経理に、そうした日本の情報だけで会話をしていたら相手にされなかったと思います」

 「なるほど。そうかもしれんなぁ」

 相槌を打う社長に、佐々木は話を続けた。

 「第二に、日本人は『真面目』『正直』『勤勉』『嘘つかない』という文化を持っています。すなわち日本人の社会では、嘘とか騙すといったことはビジネスの世界でも許されないのです。ですが海外では、そうしたことが頻繁に起こるだけに、それらを見破る能力が要求されますが、日本人のほとんどが、そうした眼識を持っていません。

 ですから日本人としては尊敬されたり信頼されたりしても、仕事のパートナーとしては信頼されません。今回も北京鳳凰が、どのような陰謀詭計を持っていないかを相当、詮索しました。そうした考えの基本は、孫子の兵法と三十六計に求めました」

 「確かに。思い当たる節はあるね」

 「第三に、我々は人事考課で、人格とか人間性を評価されませんが、海外ではそれらが相手を信用するための最大の評価項目になっていると思います。そのため日本人は、自分が誰であるかを主張する習慣がありません。日本人とは一体どういう民族かという意味で、日本人は『日本の精神』を持つ必要があるでしょう。言い換えれば日本人としてのアイデンティティです。

 これら3つが、日本企業の人材育成には欠けているのでグローバル人材が育たないのではないでしょうか。これら3つを体得できれば、おのずと『威厳』と『品格』が身についてくるのだと思います」

 「なるほど。それで、そうした人材を育成するために当社では何をすれば良いのだろう」

 「そのためには、まず海外の人からの信用を得られるためにグローバルなリベラルアーツの勉強をする必要があります。仕事の専門的なことばかりではなく、いわゆる一般教養の勉強が必要です。例えばオバマケアとか、タイのクーデターとか、ユーロ危機とか、ルーブルの暴落とかの話ができるようになるということです」

 「そういうことだったら、日本の新聞を読んでいるだけでも十分じゃないのかね?」

(以下、次回に続く)

海野恵一の目

海野惠一

 今回は佐々木が社長にグローバルリーダーの要件を説明している。北京鳳凰に勝利した10の要因を説明し、従来のグローバルリーダーのための3つの要素だけではリーダーにはなれないと言う。その理由として次の3つを挙げている。

 第一に日本人は情報量がかなり狭い
第二に日本人は『真面目』『正直』『勤勉』『嘘つかない』という文化を持っていて、嘘とか騙されることには無防備である
第三に人格とか人間性を人事考課で評価されない

 そこで佐々木は社長からの「どうすれば良いのか」という質問を受けて、以下の3点を社長に提案した。(1)欧米の情報に基づいたリベラルアーツを勉強すること、(2)欧米の表と裏の文化を体得するために華僑商法を勉強すること、(3)日本の歴史とその精神を勉強すること、である。

 こうしたグローバルリーダーになるための要件は、これまで日本企業が何十年も努力してきたが、その目的を果たしていない。その理由は、今までの要件定義が間違えていたからに他ならない。英語ができ、専門職能も持ち、仕事ができるだけでは、グローバルリーダーの人材にはなれないのである。今回、佐々木が社長に提案したようなことが今後、グローバルを目指す企業における人材育成に求められる。

筆者プロフィール

海野 惠一(うんの・けいいち)
スウィングバイ代表取締役社長。2001年からアクセンチュアの代表取締役を務める。同社顧問を経て2005年3月退任。2004年にスウィングバイを設立した。経営者並びに経営幹部に対するグローバルリーダーの育成研修を実施するほか、中国並びに東南アジアでの事業推進支援と事業代行を手がけている。「海野塾」を主宰し、毎週土曜日に日本語と英語での講義を行っている。リベラルアーツを通した大局的なものの見方や、華僑商法を教えており、さらに日本人としてアイデンティティをどのように持つかを指導している。著書に『これからの対中国ビジネス』(日中出版)、『日本はアジアのリーダーになれるか』(ファーストプレス)がある。当小説についてのご質問は、こちら「clyde.unno@swingby.jp」へメールしてください。

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