企画書、メール、電話、会議、顧客アポイント、出張、報告書、伝票処理、経費精算、有給申請……。実にさまざまな「仕事」を日々効率よくこなすのにはどうしたらよいか? 業種や職種を問わず、だれもが必ず「働き方」の問題に突き当たるはず。そんな当たり前にして永遠のテーマを、ベストセラー『「働き方」の教科書』の著者でライフネット生命保険・代表取締役会長の出口治明氏に、組織で取り組むワークスタイル変革と合わせ、とことん語ってもらった。(聞き手・構成:河原 潤 写真:池辺紗也子)

「無・減・代」で長時間労働とおさらばする!

――仕事や働き方に関する価値観の転換が迫られていることを痛感します。

出口氏:そもそも日本は働き過ぎです。データで見ましょう(図4)。日本の正社員は1990年代のはじめから、この4半世紀ずっと年間2000時間働いています。夏休みは1週間取れるかどうか。ここ数年の日本のGDP成長率は約0.5%。これをユーロ圏と比較してみます。ドイツやフランスは年間1500時間しか働かず、夏休みは1カ月取ります。日本の夏休みは1weekで、欧州は1month。ちょうどwとmが逆さになっているかたちですね。でも、GDP成長率は1.5%と、日本の実に3倍です。

図4:日本と欧州で「働き方」とGDP成長率を比較

 どちらが理にかなった働き方なのかは一目瞭然ですね。働き方、ワークスタイルを変えるというのは、そういうことです。長時間労働の悪習慣から脱却して、休暇もたっぷり取って、相対的に高い成長を目指さないと。

 日本の労働生産性はどれぐらいだと思います? 日本生産性本部によれば、世界で21番目で、G7先進国の中では20年間連続して最低です。これは酷くありませんか?

「働き方、ワークスタイルを変えるとは、そういうこと。長時間労働の悪習慣から脱却して、休暇もたっぷり取って、相対的に高い成長を目指さないと」

――はい。サービス産業がメインになってずいぶん経つのに、長時間労働や残業が一向に減りません。過労死や過労自殺の問題も深刻です。どうしたらよいでしょう。

出口氏仕事を減らす根本的な方法を、本気になって考えないとダメですね。僕がすばらしいと思ってよく紹介するのが「無・減・代(むげんだい)」という取り組みです(図5)。

 「無」は仕事を「無」くす、つまり言われた仕事を全部やる必要はないということです。上司から仕事を振られたとき、その仕事は本当に必要なのかを自分の頭で考えて判断する。上司の指示は結構いい加減で、思いつきや自己満足のために仕事を振ることも多々ありますから。

 「減」は、通例で5枚提出する報告書なら、3枚に要約して提出すればいい。「無」くせなかったら「減」らす発想です。最後は、「代」える。使い回しのことです。こういうデータを新たに用意してくれと頼まれたら、最近作った類似のデータを日付だけ変えて使い回せばそれで足りる。この無・減・代を徹底的にやることで、長時間労働の習慣が徐々になくなり、生産性は確実に上がっていきます。

図5:「無・減・代」で長時間労働とおさらばする

――そこまで抜本的にやらないと、何も変わらないわけですね。

出口氏:僕は実際、部下から無・減・代をやられたことがあります。30歳を過ぎてたくさんの部下ができた頃、僕は自席の卓上カレンダーに、部下に振った仕事とその期限をすべて書き込んでいました。

 ところがあるとき外出から戻ったら、部下が僕の書き込みを消しゴムで勝手に消している。「何してるんだ」と聞いたら、「あまりにたくさん仕事を振られて鬱陶しいから消しているんですよ」と。「仕事を舐めているのか」と怒ると、彼はこう言い返しました。「僕もアホではないので軽重の判断ぐらい付きますよ。大事なことはちゃんとやっています。半年前からこっそり消していましたが、困ったことなどなかったでしょう?」と。唖然としましたが、その半年間を振り返ってみると、確かに何も困ることもなく、ちゃんと仕事が回っていた。上司が振る仕事なんて、大体がそんなものです。自分の頭でしっかり考えることが、何よりも大切です。