前編では、『「働き方」の教科書』の著者でライフネット生命保険・代表取締役会長の出口治明氏に、個人の働き方、組織の働き方についてとくと語ってもらった。後編となる今回は、システム戦略本部 システム運用部長 名代敏之氏にも登場を願い、ライフネット生命が推し進める「ITを活用したワークスタイル変革」の進捗を尋ねた。(聞き手・構成:河原 潤 写真:池辺紗也子)

ITをうまく使えば、小さな企業でも大企業に勝てる

――ITを活用したさまざまな取り組みは、前編の出口さんのオピニオンにもつながっています。会社に来て、タイムカードを押してこれだけの時間を勤務したっていう従来の働き方からの脱却ですね。

出口氏ITをうまく活用すれば、小さな会社でも大企業に勝てるということだと思います。1つの例を挙げます。あるLCCの立ち上げでブランディング開発パートナーを手がけたのは、渋谷の小さなブランドコンサルティング会社です。大手代理店を押しのけて、なぜ、社員数十数人の会社が選ばれたのか。私の友人がこの会社に在籍していましたので聞いてみたのです。

 この会社は、北京出身の創業者と日本人のマネジメントの下、渋谷の本社、ロサンゼルスとロンドンのオフィスで活動しています。LCCの開設でパートナー契約のコンペが始まったとき、彼らは3つのオフィス間で緊密にコミュニケーションをとりながら、一度も集まることなく社名やロゴデザインなどのクリエイティブを次々と制作し、大きなビジネスを勝ち取ったそうです。

 ITを活用しなかったら、こんなことは絶対にできません。ITは、時間と距離をぐんと縮めるタイムマシンのようなツールなのです。上手に使えば、どんなに距離が離れていても、みんなで協働できる。名代が言ったように、僕たちが、自宅で仕事ができるようになるのも同じ。職場への距離・時間をゼロにしてくれるのです。

会社のビジョンやワークスタイル変革を具現化するのがIT部門の役割

――個人と組織の働き方と、ワークスタイル変革を実現するためのIT。前・後編を通じて、さまざまなお話をうかがうことができました。ところで、ライフネット生命は今の業績や業容から言うと、出口さんがよく口にされるベンチャー企業ではすでにない気がします。

出口氏:いやいや、今でもベンチャーです。年間の売上げは100億円弱で、毎年伸びてはいますが、生保業界全体の市場規模は40兆円。40兆分の100億ですから、マラソンで言えば、400mのトラックを出て公道に出たところぐらいでしょう。だから、これからがまさに勝負だと思っています。

――公道に出たばかりとは! この先の長い道のりは、新しい働き方から生まれてくるすうれたアイデア、それとITの積極的な活用ですね。名代さんのご苦労も増えるかもしれませんが(笑)。

名代氏:そうかもしれません(笑)。苦労が増えても、会社のビジョンを現実のものにするために、どう折り合いをつけるかが、我々システム戦略本部の仕事なので。歩みは遅くとも、着実に一歩ずつ、ワークスタイル変革を進めていくつもりです。

出口氏:さきほどの例のように、ITやインターネットは、小さな会社、これからチャレンジする会社にとっての非常に有用な武器です。ITをうまく使いこなしてはじめてエスタブリッシュメントや大手とも競争できる土台が確立できるのだと思います。

名代氏は「会社のビジョンを具現化するのがシステム戦略本部の仕事。着実にワークスタイル変革を進めていく」と語る