[インタビュー]
コラボレーション中心の新しいワークスタイルで、生産性と社員満足度向上―ネットワン自身の事例
2017年1月26日(木)池辺 紗也子(IT Leaders編集部)
大手インテグレーターのネットワンシステムズは、「働き方改革」にいち早く取り組んだワークスタイル変革実現企業としても有名だ。全社員が利用可能なフレックス制度やコラボレーションツール、テレワーク環境といった施策によって、同社の業務環境、生産性そして社員満足度はどう変化したのだろうか。全社にワークスタイル変革が浸透した今、実際の効果(KPI)について、同社の経営企画本部 人事部 部長の下田英樹氏と、市場開発本部 ICT戦略支援部の手塚千佳氏に詳しく聞いてみた。
経営陣の危機感「コラボレーション中心の働き方に変えなければ生き残れない」
――ネットワンシステムズが本気で働き方改革に取り組もうと思ったのはいつごろだったのでしょう。
下田氏(写真1):2009年から本腰を入れました。経営陣に、このテーマに関して、2つの強い危機感があったからです。1つは、「時間型」のワークスタイルから、「成果・アウトプット創出型」のワークスタイルに変えなければいけないということ。もう1つは、ネットワーク専業のエンジニアがユーザーに張り付いてご奉仕するという働き方では事業が成り立たなくなってきていたことです。
さまざまな技術に精通したプロフェッショナルたちがチームでユーザーの課題解決にあたり、付加価値を提供していく。そのためには、コラボレーションを中心としたワークスタイルに変えていかなければならないという思いがありました。
――8年も前から強い危機感を持たれていたわけですね。
下田氏:はい。同時に、我々が先鞭をつけて、ICTを人間同士のコミュニケーション、リアルなネットワークのほうに広げていく使命のような思いも経営陣の中にありました。トップダウンアプローチが強かったこともあって、いち早くワークスタイル変革に取り組めたのだと思います。
――やはり、トップダウンのほうが変革は進みやすいと。
下田氏:そうですね。他社のお話をいろいろ聞いていても、スピーディーに変革が進むためにはそれが一番です。
――ワークスタイル変革に取り組むべく、ツールを導入してみたものの、一部社員しか使わないというような失敗ケースも多いです。ネットワンではどのような道筋で推進していったのか、変革プロジェクトの流れとポイントを教えてください。
下田氏:元々、企業としてテレワーク環境やICTツールを率先して使っていかなくてはならない立場ということもあり、そういったものを目いっぱい生かすための制度、ルールづくりから始めました。もちろん反対意見もありましたよ。特にマネジャー陣から、「今までは部下たちがちゃんとやっているかを目の前で見ていればよかったのに、なぜわざわざ負荷のかかる制度を入れるんだ?」といった声です。そんな不満は、今ではほとんど聞かれなくなりましたが。
――ワークスタイル変革の制度が社内で浸透されていったのですね。
下田氏:そうですね。もちろんまだ課題はあります。例えば、日本企業では、成果で社員を評価するといっても、どうしても社内で長く残業をして働いてるほうが高い評価になりがちです。そこから完全に脱却しきれていない面はあります。とはいえ、制度に基づいてアウトプット重視の文化は確実に根付いてきています。
変革の軸はICTツール、人事制度、オフィス環境の導入・刷新
――ワークスタイル変革にあたって、具体的にどのような制度を作り、ツールを導入したのでしょう。
下田氏:大きく分けて3つあって、(1)ICTツール、(2)人事制度、(3)オフィス環境です。この3軸で全社変革プロジェクトを進めていきました。
ICTツールとしては、VDI(Virtual Desktop Infrastructure:デスクトップ仮想化)を導入し、全社員がいつでもどこでも、ネットワークにさえつながれば、すべての業務が可能になるようにしました。オフィスに出社しないと取りかかれない業務はほぼなくなっています。併せて、ビデオ会議、グループチャット、プレゼンスといったコミュニケーションツールを導入し、先で述べたコラボレーション中心のコミュニケーションを可能にする仕組みを整えました。さらに、ワークフローもほぼすべて電子化し、申請・承認などのフローで、日本企業伝統のハンコ押しを廃止しました。
人事制度面では、全社員を対象に「テレワーク制度」と「フレックス制度」を導入しました。また、夜間の保守作業などのある一部のエンジニアについては、勤務時間をビジネスアワーからずらすことのできる「シフト勤務」も取り入れています。
オフィス環境は、2013年の本社移転と同時にフリーアドレス(グループアドレス)を導入し、フレキシブルな仕事環境を整えました。それと共に、全会議室にビデオ会議システムを導入しています。チームでの協働に向くコラボレーションエリアや、集中して作業をしたいときのための集中ブース、社員が自由にセミナーなどを開けるシアターなども設置しています(写真2)。
――ビデオ会議やコラボレーションエリアなどの利用率はいかがでしょう?
下田氏:常に利用されている状態ですね。シアターでもしょっちゅう何かが行われています。ビデオ会議システムも、離れた拠点同士のやりとりはもちろん、「社内移動の時間すら惜しい」とか「会議室が取れない」などの理由で、本社24Fと25Fの人間がネットワーク越しに会議をしていることもあります(笑)。
手塚氏(次ページ写真3):私が所属している部門は、営業活動がメインで、全員が揃うことがまれです。なので、定例会議などでは、5~6か所からビデオ会議にログインしていることもあります。PC1台あれば、自宅からでもフリースペースからでも会議に参加できますから、当たり前に使っています。
評価軸は「定めたアウトプットを出していること」
――申し分ない環境ですね。一方で、例えばマネジャー陣から、10時~18時30分を在宅勤務とする社員が、「本当にちゃんとその時間に勤務しているのか?」「サボっていないか?」といった心配が出てきたりしませんか?
下田氏:皆無とは言いませんが、むしろ、テレワークをする側の社員こそ、直接目に見えていない作業を疑われたくないという思いがありますから、しっかりと上司へのレポーティングを行っています。テレワークを行う際は、事前に上司に「これだけのアウトプットを出します」という申請をします。そして1日の終わりに、その成果についてレポートするわけです。最初にお話したように、時間ではなくて成果で評価するという観点から、実際のアウトプットが重視されるわけです。
――働いた時間ではなく、約束したアウトプットを出せているかどうかという評価軸に変わったわけですね。
下田氏:はい。ただ、人事部としては、本当はもっと踏み込みたい意向もあります。働いた時間分の成果がしっかり出せているのか、計画どおりに進んだか、業務にあたる方法に問題がなかったのか、といったことです。テレワークで勤務している時間の生産性をもっと上げるためにやらなくてはならないことはまだ残っているはずで、次のステップとして取り組みたいと思っています。