日立製作所と日産自動車。日本を代表する製造業の両社には、ITの利活用に関して共通点がある。人材管理に米Workdayの、タレントマネジメントには米Cornerstone OnDemandのソリューション(いずれもSaaS)を採用していることである。しかし日本企業である両社がなぜ、人事関連のシステムに海外のツールを、それも2種類も使っているのだろうか?
社員数が半減した日産、少数精鋭になるしかない
課題認識は日産自動車も同じ。むしろ海外売上比率が50%程度の日立に比べ、日産は自動車販売の88%が海外(製造は80%が海外)なだけに、グローバル人材マネジメントを急ぐ必然性は、より高いかも知れない。同社の小澤一義氏(日産ラーニングセンター モノ作り大学 エンジニアリングスクール 主担)「仏ルノーとの提携前、日産の社員数は5万5000人だった。現在は2万3000人と半減しており、ダイバーシティ度の高い、少数精鋭の体制になるしかない」という事情もある。
そこで日産は、人材情報管理のためのWorkdayとは別に2015年、「Learning@Nissan」と名付けたCornerstoneによるLMSを導入し、人材育成の効率を高めつつある。「以前は集合研修とeラーニングを別々に提供していたコースが、今は組み合わせて実施できるようになった。例えばeラーニングで学んでから、集合研修では実習だけにできるので、集合研修の期間を短縮できる。コンテンツも動画やテストなどさまざまなタイプのものを混在利用できるのもメリットだ」(小澤氏)。
日立と日産に共通して言えるのは、人材マネジメントに真剣に取り組んでいることだ。というのも『知っておくべき人材マネジメントSaaS「Workday」の実像』で示したように、WorkdayにもLMSの機能が存在する。実装されたのは2016年初めで時期的にはやや遅いが、手間やコストを考えればCOSDではなく、WorkdayのLMSを待つ選択肢もあったはずだ。にもかかわらずCSODを導入しているのは、それだけタレントマネジメントが喫緊の課題であり、急ぎ実施する必要があると考えているはずだからだ。
筆者が信頼する、ある識者はこの点をこう解説する。「世界の競合他社と戦うためには、人材の平均レベルを高めるだけでは不十分。世界各国にいる社員の中から、これぞという人材を見出し、育成してリーダーに据えなければ勝てない。そのために不可欠な仕組みがLMSなのだろう」。平均的なスキル強化ではなく、次代を担うエリートの選抜が目的というのである(図3、図4)。
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多くの日本企業では必ずしも一般的とは言えないアプローチに思えるが、両社におけるLMS専用ソリューションを生かしたタレントマネジメントの実践には納得がいく。海外企業や異業種、ベンチャーなどと相まみえるデジタルビジネス時代の競争を勝ち抜くためには、まず人材の育成、獲得が前提になるのだ。