日立製作所と日産自動車。日本を代表する製造業の両社には、ITの利活用に関して共通点がある。人材管理に米Workdayの、タレントマネジメントには米Cornerstone OnDemandのソリューション(いずれもSaaS)を採用していることである。しかし日本企業である両社がなぜ、人事関連のシステムに海外のツールを、それも2種類も使っているのだろうか?
以前から疑問に思っていることがあった。HRM(Human Resource Management:人的資源マネジメント)ソリューションベンダーである米Workdayの日本のユーザー企業と言えば、日立製作所と日産自動車が代表格。同時にTM(タレントマネジメント)ソリューションベンダーである米Cornerstone OnDemand(CSOD)でも、やはり両社が日系ユーザー企業の筆頭格である点だ。しかもHRMとTMは出発点こそ違えど、その機能はオーバーラップしつつあり、普通に考えれば、どちらかのソリューションで問題ないはずでもある。
そんな疑問を解消する格好の機会があった。2017年2月中旬にCSODが都内で開催した「グローバルタレントマネジメントセミナー」である。日立と日産の人事責任者が登壇し、それぞれの状況を説明した。先に登壇したのは日立の田宮直彦氏(人財統括本部副統括本部長 兼 日立総合経営研修所社長)。「海外事業の強化を命題とする日立にとっては人材力の強化がカギであり、2011年から人的資源マネジメントを変革してきた」という。
「事業を取り巻く変化は激しい。人事が人材配置を決める従来のやり方では通用しない。1人ひとりの社員が自分のことを明らかにし、あるいは教育機会を利用して求められる要件に自らアジャストする。学び続ける“学習する組織”が必要だ。人事部門はそれをサポートし、教育機会を作るのが役割だ」(田宮氏)。これにより、例えば各国で縦割りになっていた組織に横串を通し、仕事に応じてグローバルな混成チームを作り上げられるようにする。
そのために日立は2011年以降、グローバル人材マネジメント体制を始動し、社員マスターの一元化や評価制度のグローバル化を推進してきた(図1)。2015年に導入を始めたのが「Hitachi University」。実態のある教育機関ではなく、Cornerstoneを使ったラーニング管理システム(LMS)である。同時並行で人材情報管理システムをWorkdayで刷新しつつある。現在は海外拠点が中心で、日本には2017年度に導入を開始する予定だ。
拡大画像表示
Hitachi Universityが提供する機能は、内外部の研修機関が提供するコースやツールの一覧化と、集合研修やeラーニング・ビデオ教材などの一元化、SNSを通じた研修生同士のコラボレーションなど。当然、個々人の研修履歴や資格取得状況などを把握できるなど、研修を実施する側の作業負荷の軽減も図れる。社員や組織にとっては、スキルギャップの認識が可能になる(図2)。
拡大画像表示
田宮氏は現状について、「教育コースの募集は、以前はせいぜい月1回くらいだったが、今は随時、募集できる。eラーニングの教材は現在3000本くらいになり、海外にいても日本並みの教育を提供できるようになった。しかし課題もある。独自のLMSを持っているグループ企業もあり統合は簡単ではない。またLMSで募集をかけるだけで自主参加にしたら、受講が減ってしまった。研修内容のブラッシュアップもまだ途上である」と話す。