ユーザー企業によるシステム開発の「丸投げ」がしばしば問題視されるが、その一方で、案件を請けているベンダー側にも“丸投げSI”とでも言うべき実態が散見される。高度なプログラマー育成を怠って自社で納品プログラムの品質管理もできず、下請け発注管理ばかりやっている──。これではプロの誇りある仕事とは言い難い。ユーザーとベンダーの望ましいパートナーシップとは、いかなるものかを今回は考えてみたい。
情報サービス業界の階層構造はビジネスの構造問題として長く問題視されてきた。よく建設業界と似た構造と言われるが大きく異なる。これについては別な機会に論ずるとして、今回は情報サービス業界の残念すぎる実態について書いてみたい。筆者の知り合いの若者の実体験に基づくものである。
彼は情報技術者を目指して中小の情報開発会社に正社員として雇用された。最初の3カ月は教育期間に充てられ、Javaのプログラミング教育を受けた。教育内容はよくできていて、プログラミングの概念をいろいろなケースメソッドで教えていき、Javaプログラミングの課題学習へと進んで行く。自習型で課題を消化していくが、行き詰まると夜になって派遣先から戻ってきた先輩技術者がチューターの役割で指導に当たってくれる。ここまでは何ら問題はない。
採用時の雇用契約に雇用区分の明記がなく、研修期間中は時間外労働の支給はないとだけ言われたという。交通費の支給や社会保険、雇用保険の類は完備と明記されていて交通費は支給されたが健康保険証の支給がない。研修が始まって2カ月を過ぎた頃、彼は研修中の雇用身分や研修明けの仕事や処遇がどうなるかを尋ねた。すると研修期間はアルバイト扱いだから健康保険証の発行はないのだと言われる。その間は国民健康保険に加入しなければならない。まあ、それも研修期間だから仕方ないかと考えた。問題はその後にあった。
開発元請会社の下で派遣社員としてプログラミングの仕事をすることになった彼は、派遣先に提出する業務経歴書に実務経験が3年あり経験も豊富と明記してサインすることを、会社から求められたのだ。しかも深夜残業でもない限り、時間外労働の支給はないと言われる。根が真っ直ぐな男だから、虚偽申告を容認するなどあり得ず、きっぱりと断った。それが理由で彼は解雇されたのである。
“丸投げSI”という業態から脱出せよ
システムインテグレーション(SI)サービスをビジネスの中核にしている元請会社は自社の社員だけで開発するわけではなく、多くの開発受託会社に下請けさせている。むしろ自社内で社員がプログラムを書いている会社は少ない。この構造が連鎖的に繋がっているから、筆者の知り合いの若者のような問題が起こる。直接、本人から聞いたのはこの件くらいだが、嘘と知りながらサインして働いている若者は少なくないだろう。
問題はこれに留まらない。元請会社は発注者の契約元としてソフトウェア開発を請けて納品をするが、実際のソフトウェアの多くは下請けが製造している。元請会社の社員が出来上がったプログラムの品質を確認し十分に管理監督する環境ならまだしも、実態は違うから品質問題も開発遅延も頻発する。ユーザー企業のシステム開発の丸投げが実態として存在し、問題としてよく指摘される。しかし請けているベンダー側も、実態は丸投げ状態が少なくないのだ。
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