日本のERPシステム大手であるワークスアプリケーションズ(ワークスAP、牧野正幸CEO)に関して、気になる話がある。2017年5月に兼松エレクトロニクス(KEL)がワークスAPに対して14億円強の賠償を求めて訴訟を提起したこと、それに予約購読制の情報誌「FACTA」が2017年10月号に掲載した「業務ソフト大手『ワークスアプリ』が視界不良」と題する記事だ。ワークスAPに何かが起きているのか。実際のところはどうなのか─。牧野CEOを直撃した。
牧野CEOとの一問一答に入る前に、訴訟の概略とFACTA記事のあらましを説明しよう。まずITインフラ領域を得意とするシステムインテグレーターである兼松エレクトロニクス(KEL)が、「訴訟の提起に関するお知らせ」と題するプレスリリースを2017年5月に公表した(http://www.kel.co.jp/contents/files/soshou_teiki_release170510_00.pdf)。
KELがワークスAPのCOMPANY(販売、調達、財務、Webコラボレーションなど)を使って基幹システム刷新に着手したのは2014年のこと。だが予定していた2016年4月には稼働せず、同リリースによると「当初ワークスAPが提案した予定工数をはるかに上回る社内外の人員を投入し、(稼働開始予定を)1年延期し、さらに(KELは)当初合意していた仕様の一部を先送りするなどの柔軟な対応を行ったにもかかわらず、ワークスAPは新たに合意した期限までに本プロジェクトを完遂することができず、現在でも債務不履行の状態にある」という。
加えて「(ワークスAPの)製品は、それ自体が完成した製品とは言い難く、プロジェクトの各フェーズにおいて不具合及びワークスアプリケーションズの作業誤りに伴う手戻りが発生」「基幹システムの稼働に求められる最低限の機能実装も完了できなかった」「債務の本旨に従った履行を求めたが、一切誠意ある対応がない」(いずれも同リリース)と説明。ワークスAPに支払った代金に開発遅れによる損害を合わせて約14億3080万円を請求する訴訟を、2017年6月26日付で東京地方裁判所に提起した。
これに対してワークスAPは8月10日、「兼松エレクトロニクス社の主張に対する当社認識について」と題したリリースを公開している(http://www.worksap.co.jp/news/2017/0810/)。しかしここでは「(上記のKELのリリースや)訴状におけるKEL社の主張については、当社としても承服できないものであるため、今後裁判手続きの中で適切に対応する所存」と反論するのみ。KELの指摘に正対した説明はほとんどない。
情報誌が「資金難のソフト会社」と指摘
とはいえ、システム開発を巡る訴訟はスルガ銀行と日本IBMの係争や、9月に判決が出たばかりの旭川医大病院とNTT東日本の電子カルテシステム納入を巡る訴訟(https://www.hokkaido-np.co.jp/article/129396)などさして珍しくはない。ワークスAPにとってより厳しいのは、FACTA2017年10月号に掲載された記事だろう(https://facta.co.jp/article/201710011.html)。
同記事はKELによる訴訟にも言及しつつ、ワークスAPの財務状況に焦点を当てたもの。「(好調に見えるが)実は借入金が膨らみ、資金繰りが胸突き八丁の局面を迎えている」という取引行関係者のコメントを掲載し、6月より借入金の返済をストップしていると書く。加えて「16年6月期決算では24億円の最終赤字。有利子負債は239億円と1年で倍増した」「一部の取引銀行は(返済の)リスケジュールに及び腰」「(大株主である)ファンドは(取引銀行から連帯保証を求められているが)むしろ株を売りたがっている」といった指摘とともに、「資金難のソフト会社」「1年先さえ視界不良」といった言葉もある。事実だとすれば、「累計で1300社を超える」(ワークスAP)のユーザー企業にとって、見過ごせない問題である。
実際はどうなのか。牧野CEOへの一問一答を掲載する。長文なので結論を先に記しておくと、訴訟に関する牧野氏の説明には納得感があった。どちらが正しいのかは結局のところ裁判を通じて明らかになるだろう。一方の「ワークスAPが視界不良」とする記事への説明も、筆者は納得できた。財務状況に関する数字や一部金融機関のコメントを拾ってつなぎ合わせると記事の論理は構成できるにせよ、ワークスAPは必要な資本調達を実施しており、「視界不良」には当たらないというものだ。
◇ ◇ ◇
テスト入りの条件は「14億円強の損害賠償の保証」
──KELの訴訟に対し、ワークスAPが8月に出した見解は御社の姿勢を述べただけで一般論に思えます。落ち度がないのなら明解に反論するべきではなかったでしょうか? またKELが訴訟すると発表したのが5月、実際に裁判を提起したのが6月末。5月からカウントすると3カ月も経過しているわけで、時間がかかりすぎたと思います。
数社の顧客からも同じことを言われました。「もっと明確に早く出すべきだった」と。危機管理をお願いしている弁護士からも、反論を早く出すべきだったと叱られもしました。でも5月に訴訟するという発表があった後、訴状が届かず、対応しようがないので沈黙していました。まだ契約が成り立っていることもあって、あまり反論するのもどうかなどと考えて、このような形と時期になってしまいました。
顧客であるKELはシステムインテグレーター(SIer)でありITのプロでもあるので、5月の時点ではなんで訴訟になるのかという思いもありました。少なからずいらっしゃるSIの顧客からは「問題なく使えているし、KELも同じはず」という声もあります。いずれにせよ、今後、裁判の中ではっきりさせていきたいと思います。
──訴訟のポイントについてお聞きします。KELの主張は(1)ワークスAPが提案した予定工数を遙かに上回る社内外の人員を投入した、(2)にもかかわらず稼働を延期することになった、その大きな理由として(3)製品は完成したものとは言いがたく、不具合や手戻りが発生した、といったものです。それぞれについて、どういった見解ですか。
裁判中なので細かくは言えないこともありますが、まず我々は工数について見積もりを提示し、KELに実施してほしいことの要望も出していました。基幹業務に関わる常識的な話であり、それとKELの社内工数が大きく変わることはないはずです。KELはプロでもありますしね。あまり言えませんが、そこを指摘するのはおかしいと考えています。
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