「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、CIO賢人倶楽部でアドバイザーを務める重松直氏のオピニオンです。
最近、「情報システムの低消費電力化」に関する研究開発について、著名な研究者の方々から以下のような話を伺った。
- 情報システムが消費する電力消費量は増加の一途をたどり、ある調査結果によると、将来、日本の全電力消費量の10~30%が情報システムで消費される。まさに「このままでは破綻」「省電力化なしに性能向上なし」ともいえる状況である。このような状況の下、世界各国でも「情報システムの低消費電力化」は最も重要な研究の一つとされている。日本でも「グリーンIT」などの国家研究が推進されている。
- ハードウェアのレベルでは、以前から省電力化の研究開発は進められてきた。最近では、「ムーアの法則の限界」「フォンノイマンのボトルネック」が強く意識され、集積回路や回路基板の3次元化が進められており、低消費電力で3次元化を実現する薄膜化技術、回路結合技術、回路制御技術などの開発が進んでいる。低消費電力で大容量通信を行う情報ネットワーク技術も同様である。
- しかしハードウェアのレベルだけでの省電力化には限界がある。先端の人工知能やFinTech、IoTなどでは大量のデータを頻繁にアクセスするため、電力消費が格段に増加する。システム設計やアプリケーション設計のレベルにおける省電力に取り組む必要がある。現状を見ると、残念ながらこれらレベルでの省電力化はあまり意識されていない。
- 情報システムに携わる責任ある立場の人達は、情報化の進展に伴う電力消費量の増加を社会システムの新たな問題と捉え、「システム設計やアプリケーション設計レベルからの省電力化」を今後の重要な施策として取り上げて積極的に取り組んで欲しい。
確かに省電力化の必要性を痛感したが、しかし、システム設計やアプリケーション設計レベルでの省電力化は簡単ではない。車載システムやモバイルデバイス、4Kや8Kの高精細画像を扱う画像処理システムなど省電力化が必須の分野ならともかく、企業情報システムにおいては省電力への意識は高いとはいえない。
実際に取り組むにはハードルもある。省電力効果の高いハードウェアの機能や構成、消費電力を知り、アプリケーションがどの処理の時にどのハードウェアをどのように使うかを知る必要があることだ。その上で機能・性能・省電力の最適なバランスを考え、新しいアーキテクチャ、新しいデータ構造のシステム設計やアプリケーション設計を行わなければならない。
とはいっても、すぐにできる省電力化もある。既存システムの3S(整理・整頓・清掃)によるスリム化は即効性があるだろう。不必要なデータやプログラムの削除、不必要な広範囲・高頻度のデータ更新の適正化、頻繁にアクセスされるデータ群とそれ以外の分離などである。3Sを進めれば、もしかしたら「システム設計やアプリケーション設計レベルの省電力化」、すなわち新しいアーキテクチャ、新しいデータ構造、新しいオペレーションシステムへの手掛かりが見つかるかも知れない。もちろんクラウドコンピューティングの活用も効果があるだろう。
世の中は「省電力のためには、情報システムの高機能化や高性能化は諦める」とは考えないだろう。是非、「低消費電力で、格段に高機能・高性能な情報システム」を実現したいものだ。
CIO賢人俱楽部
重松 直
※CIO賢人倶楽部が2017年12月1日に掲載した内容を転載しています。
CIO賢人倶楽部について
大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOを初めとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。
経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。一部上場企業を中心とした300社以上の顧客を擁する同社は、グローバル経営管理、コストマネジメント、成長戦略、業務改革、ITマネジメントなど600件以上のプロジェクト実績を有している。
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