大阪に本社を置く鋼管メーカーの丸一鋼管がIT環境を一新するプロジェクトに取り組んでいる。会計分野にはAI(人工知能)機能を持つERP(統合基幹システム)の「HUE」(ワークスアプリケーションズ製)を採用。メインフレーム上で稼働する生産・販売管理システムはクラウド化を計画すると同時に、IoT(Internet of Things)の仕組みの導入も進める。ERPの切り替えは過去からの検討事項だったが、なぜ今回、システム一新を決断したのか。その理由を管理部門を管掌する執行役員 経理部部長の河村康生氏に聞いた。(聞き手は志度昌宏=DIGITAL X編集長、文中敬称略)
――基幹システムを含めたシステム環境の一新に取り組んでいます。
はい、会計や人事、給与といったシステムをAI(人工知能)機能を持つERPシステム「HUE」(ワークスアプリケーションズ製)に切り替えるほか、メインフレーム上で稼働している生産・販売管理システムもクラウド化を含め稼働環境を一新する予定です。
当社の規模で、ITの推進体制も決して十分とは言えない会社が、ここまでシステム環境を一気に切り替えることに対して危惧される声も聞こえてはいます。当社自身、今回のプロジェクトは「石器時代から宇宙開発時代に、ひとっ飛びするような冒険だ」ととらえています。そんな計画に対し、「私たちの経験がお役に立つならお手伝いしますよ」と言ってくださる企業さんも少なくありません。
そうした方々のお力もお借りしながら、2019年4月を計画しているERPの切り替えを成功させる考えです。まずは本社と、北海道と四国、九州。沖縄にある事業所を対象に、合計30拠点、1000人弱が利用するシステムになります。一部に決算期が2月の拠点があるため、そこは先行稼働させなければなりません。
――「宇宙開発時代」はAIなどを活用するという意味でしょうが「石器時代」というのは。
当社のシステム環境はこれまで、「生産と販売の状況が分かれば十分」という考え方が強く、システム部門であるIT推進室の役割も、メインフレーム上に独自に開発してきた生産・販売管理システムの運用・保守が中心です。そのため、会計や人事、給与といったシステムは、それぞれにパッケージソフトウェアを導入し、経理部門と総務部門が管理してきました。
会計システムなどは、これまでも、Windows Server 2008やサーバーのサポート終了時期などにERPに切り替えようということまでは決めても具体化できず、対処療法的な変更にとどまっていました。結果、メインフレームを含めシステム間の連携は、CSVファイルや紙ベースでデータを受け渡しで実現しているような状況ですし、出張精算なども書類を作成し実費精算するなど、紙ベースの業務がまだまだ多数存在しています。システムを使いこなすとかデータを活用する以前の状態なのです。
「自国消費」を前提にシステム連携ニーズが低かった
こうした状況にとどまっている理由の1つに当社の事業形態があります。都市の再開発や被災地での復興事業などもあり鋼管事業は2017年度(3月期)の上期は前年同期比15%増と好調ですが、少子高齢化が進む国内市場が今後、縮小することは避けられません。そのため海外事業にも注力し総売上高の4割弱を占めるまでに育ってきています。
ただ鋼管という商品は重量もあり、国内で生産した商品を輸出するという形態は取っていません。現地で生産し現地で販売する「自国消費」が前提です。そのため、海外進出しても現地では汎用的なERPシステムをそれぞれが稼働させています。連結決算時にのみ必要な数字をやり取りする程度で十分だったのです。
システム化の推進体制も課題でした。先にお話ししたように、IT推進室は生産・販売システムの担当で、会計などは経理と総務の管轄です。IT推進室にすれば、メインフレームのほかに各種サーバーを多数導入しており、それらの切り替えや運用だけでも手一杯な状況です。だからといって経理部門だけで会計システムをERPに切り替えることもできません。「ERPにしたい」という気持ちはあっても、こうした要因からなかなか踏み切れませんでした。
――それが今、プロジェクトとして一気に動き出たのは、どうしてですか。
いくつかの要因が重なりあった結果です。1つは、当社代表取締役会長兼CEOの鈴木 博之は2017年から関西経済同友会の代表幹事を務めており、第4次産業革命が進むなかでIoTやAI活用の旗振り役を担っています。そのため当社としても率先して取り組まなければという雰囲気が醸成されました。
その意味では、HUEのAI機能には大きく期待しています。当社は「少数精鋭主義」を掲げており、管理部門などのスタッフ数が少ないのですが“石器時代”の業務形態では、会社の成長を支えきれません。新システムでは、AI機能を使い、定型業務の自動化や必要な処理を先回りして実行できるようになります。これにより、定型業務に携わっている人員や処理コストを削減し、余力は企画業務に振り向けていきます。
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