「商品データ」や「受注データ」などと一口に言っても、その意味や構造、詳細項目は企業や部署によって異なるケースが少なくない。それを放置したままでは現状業務分析や新規業務設計はもちろん、データ分析や利活用に悪影響がある。そこで有用なのがデータモデリングである。データマネジメントの実践局面において、データモデリングはベーシックかつ必須の技法であり、その実践によってデータにまつわる様々な課題を可視化・共有し、解決に導くことができる。「データマネジメント2018」のセッションでは、データ総研が長年蓄積してきたデータモデリング教育のノウハウを基に、「データモデリングのプロ」に求められる考え方とHowTo、効率的な育成方法について解説がなされた。
データモデリングのプロが求められている理由とは
そもそも、モデリングのプロがなぜ必要なのか? この基本的な疑問について、データ総研のコンサルティンググループ 取締役 エグゼクティブシニアコンサルタントの小川康二氏は、「アプリケーションごとにデータがつくられてしまう状況は昔から変わらないが、そのままではデータの分析や利活用の際に支障が生じてしまう。そのため、モデリングのプロの手によりデータの整合性を保つことが重要になる」と回答した。
市場競争が激化するなか、自社の競争優位性の獲得に向けて、企業の内外に存在する大量のデータを適切に管理し、データの利活用を推進すること──つまり、データマネジメントの推進が強く求められている。しかしその際には、抽象的な存在であるデータを目に見える形で表現し、ステークホルダー間で共有できるようにする必要がある。その役割を担うのが“データモデリングのプロ”だと小川氏は強調した。
データモデリングの適用範囲は広がっており、データモデリング自体は一般的になってはいるものの、「モデリングが本当にできるレベルの人は少なく、その意義や意味をきちんと理解されずに使われていることも多く見受けられる」という。
では、データモデリングのプロには何が求められているのだろうか。まずは、モデリングに対する考え方の変革である。
小川氏は、「モデリングとはファシリテーションのための道具である」と言い切る。モデリングを使う局面においてドキュメンテーションの割合は1割程度に過ぎず、残り9割はファシリテーションに関するものとなるからだ。
データは抽象的な存在で、受け止める人間によって認識の差がでてきてしまう。組織はその文化や教育によって「顧客/商品とはこういうもの」、「受注とはこういうもの」などいったかたちで情報=データを定義し、それを共有しながら仕事をしているわけだが、それでも細部では認識の差がでてしまうことになる。
「つまり組織が違えば、定義も変わるというのが現状だ。しかしいま求められているのは、組織を横断したデータの活用や、外部データの活用だ」と小川氏は訴えた。
そこでデータモデリングのプロに求められる役割は、ステークホルダー間の業務に対する認識や要件の「差」を、データモデリングを駆使して明らかにし、課題を調整し、そして“落とすべきところに落とす”ことなのだ。大事なことは、理想論を述べるだけではなく、理想論に一歩でも近づけながらも、現実解を意識した解決策を導くことである。
エンティティとリレーションシップ
実はデータモデリングのプロが扱う技術は至ってシンプルであり、「エンティティ(管理対象)」と「リレーションシップ(エンティティ間の関係)」が描ければ十分である。
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しかし、実際にやってみるとエンティティの認識が非常に難しい。ステークホルダーの間でも差が大きく出てくるので、そこをいかに理解するかがモデリングのプロに求められてくる。
また、モデリングする際に注意すべきポイントは大きく4つある。まず1つ目は、データは相対的に定義されるので、エンティティの範囲と粒度、そしてリレーションシップを常に意識することだ。2つ目は、第三者に読まれることを前提に配置にこだわること、3つ目が、常にデータの整合性を意識(シミュレーション)すること、最後の4つ目が、常に業務を意識することである。
- 範囲と粒度、そしてリレーションシップを常に意識する
- 配置にこだわる
- データの整合性を意識(シミュレーション)すること
- 業務を意識する
「オペレーショナルな活動を業務と考えがちだが、アウトプットが生じるものを業務と考えるのならば、例えばマスタデータ統合やデータ活用推進なども業務に含まれるようになる。今はデータを扱うしくみ全般が業務となっており、モデリングの対象である」(小川氏)。
モデリングの進め方自体も至ってシンプルであり、ステップ1でステークホルダーそれぞれの認識を明らかにし(=現状認識)、ステップ2ではそれぞれの認識の差を理解し、どこに課題があるかを抽出する(=課題抽出)、最後のステップ3で、落とすべきところに落とす策を講じる(=課題解決)という流れとなる。
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シンプルではあるが、なかなか実行するのが難しいのも事実だ。それぞれに求められるスキルが違い、ステップ1ならばヒアリングスキル、2では課題抽出スキル、3では課題解決スキルが必要になるという。
ポイントは、モデリングのプロをどのように育成するか
このように異なるスキルが求められるデータモデリングのプロをどうやって育成するのかは大きな課題だ。いわゆるOJTで先輩のやり方を学ぶというのでは、時間がかかってしまう。そこで、事前に学べることはしっかりと学習させることで、かなりの時間短縮が期待できることになる。最初は正しくモデリングできることを学び、次に何をヒアリングすれば良いのか理解する、その後、どこに問題がありどう解決すれば良いのかを理解し、最後にどういったシーンでどうモデリングを活用すべきかを理解するのである。
学習と、実務における実践を繰り返しながら、やがてモデリングのプロとしてファシリテーションができる人材が育っていくのだ。
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「従来のモデリング教育にも問題があった」と小川氏は自戒を込めて言う。これまでは詰め込み方式の教育が中心であり、座学を学んでから練習問題を解き、演習で実践してみるというステップが多かった。「とはいえ、座学で急に教えられても頭に入らないし、練習問題もあまり解けていないのに先に進んでしまう。そして演習でも、講師のサポートでとりあえずできたというだけ。これでは実務に出ても実践できないのは当然である」と小川氏は反省した。
そこで学習方法を見直した結果、「社会人は自ら学び、自ら考え、自ら行動するもの」という社会人の本質に合致した学習方法を実践するようになったのだという。
これからの社会人向けのモデリング教育では、どう実務に適用するかという観点を中心に設計して教育することが求められる。事前に学習し疑問点を知ったうえで、ディスカッションしながら自分の考えを伝え、ワークショップで実務の行動を意識しながら実践してみる──というのがこれからのモデリング教育のかたちとなる。
こうした新しいモデリング教育を取り入れているのが、データ総研が提供する「データモデリングのプロ育成プログラム」だ。プログラムでは、8時間の講習を2日間受講するコース1の後、3時間の講習を3カ月の間に6回受講するコース2へと進む。このプログラムを通じて、データモデリングの初心者が、データモデリングのプロへと育つ。
最後に小川氏は、「我々はデータモデリングのプロ集団ではあるが、目指しているのは我々自身がプロになることではなく、すべての企業にモデリングのプロを育成することにある」と述べて講演を締めくくった。
●お問い合わせ先
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