[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

「ユーザー力」ある情報システム部門を考察する

積水化学工業 高機能プラスチックスカンパニー 経営管理部 IT企画グループ理事 小笹淳二氏

2018年10月10日(水)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り組みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 経営管理部 IT企画グループ理事を務める小笹淳二氏のオピニオンです。

 情報システム部門の重要なミッションの1つが事業貢献です。積水化学でも戦略を立てて中長期的な取り組みを進めています。その中で強化が大切と考えている「ユーザー力」について、説明させて頂きます。

 筆者が情報システム部門に異動した15年ほど前、メンバー3人で情報システム部門の“ありたい姿”を議論しました。情報子会社との関係を含めて、強い情報システム部門を検討したのです。答は企業の置かれている環境によって異なるはずですが、当時、浮かび上がったのが「ユーザー力」でした。どういうことかと言うと、ITベンダーの意向に左右されない、振り回されないことです。

 自らの主体性、やりたいことを実現できるようにするわけですね。そこから会計・販売・製造などの業務システムや、メール・スケジューラ・会議室などのコミュニケーション基盤を“手作り”しました。ベンダーの製品戦略に左右されませんし、ライセンス料や保守料を気にかけることもありません。結果、2万人を超えるグループ共通の情報基盤となっています。

 しかしIoTや第3次人工知能(AI)ブームが始まった頃、正確にはもう少し前の5年前から、それだけでは不十分なのではないかと考えるようになりました。情報システム部門に求められる役割は大きく変化しています。それならばユーザー力も、以前と同じであっていいはずがないのです。

 現在ではユーザー力を再定義し、「ユーザー企業が自らのリスクでITを業務革新や新ビジネスに活用する力」と考えています。このためには(1)情報システム部門が最新IT技術の目利きとして認知される、(2)ユーザー部門からIT活用のアイデアがでる土壌を作る、(3)新しい取組実行時のリスクに対して前向きに取り組む風土を形成する、の3点が必要になります。

 業務システムなどの開発や運用保守部門としてだけでなく、我々が「ITの目利き」として認知されるためには、様々な施策が必要です。例えば自社のITの取り組みを専門メディアの客観的な記事や外部表彰制度などを活用して社内に認知してもらうこと、社内報などを使って応用事例を含めた形で先進ITの状況を社内に発信すること、経営会議などの場でITの状況を説明する機会を増やすこと、などです。

 一方で目利きをもとにして立案したIT戦略を実施する最大の障害は、人材不足です。即戦力としてのIT人材の確保が非常に難しい現状では、既存メンバーの活性化とIT部門以外からのメンバー異動で要員を確保した上で、各自が「ユーザー力」を付けていく必要があります。

 このためには、(1)情報システム部門のメンバーが最新IT技術の動向を体感し、PoCなどを通じて経験を積む、(2)利用部門がIT技術の動向を認識し、自部門の業務改革や新ビジネスへの適用を考える、などの取り組みを継続的に実施していかなければなりません。

 ユーザー部門からIT活用のアイデアがでるようにするためには、最新ITの動向把握や他社事例の共有化、各自が取引先などのIT活用状況を調べることを心がけ、さらにIT活用のアイデアに対して真剣な検討を行うことが必要です。

 この時、IT活用のメリットとリスクのバランスをうまくコントロールすることも「ユーザー力」を高めるために大切です。新しい取り組みには必ずリスクが伴うので、リスク重視に傾くと何もできない状況に陥ります。そうではなく、むしろ失敗を恐れずに”やってみなされ”と言えるようにならなければならないのです。ユーザー部門が新しいアイデアを情報システム部門へ伝え、共同で実現していく。そんな取り組みが情報システム部門に求められているのではないでしょうか。

積水化学工業
高機能プラスチックスカンパニー 
経営管理部 IT企画グループ 理事
小笹 淳二氏

※CIO賢人倶楽部が2018年10月4日に掲載した内容を転載しています。

 


●プロフィール
CIO賢人倶楽部(CIOけんじんくらぶ)
大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOをはじめとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。

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