[市場動向]

欲しかったのは「顧客を正しく見て理解する力」─Salesforce.comによるTableau買収の背景

2019年6月14日(金)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)

米Salesforce.comが米Tableau Software(タブロー)を買収──2019年6月10日(米国時間)に飛び込んできたこのニュースは、それぞれの分野でトップシェアを誇る企業同士のマージだけに、世界中のIT業界関係者を驚かせた。買収発表後、Tableauの株価は実に34.6%も上昇しており(セールスフォースは4.7%ダウン)、本ニュースの衝撃の大きさを物語っている。両社の戦略やこの分野の動向から、巨額買収の背景を探ってみたい。

 米セールスフォース・ドットコムが米Tableau Softwareを買収するのに支払う額は概算で約157億米国ドル、日本円にして約1兆7000億円にも上る超大型買収である。両社の声明(Salesforce.comTableau)によれば、セールスフォースはTableauが発行するクラスAおよびクラスBの普通株1株に対し、セールスフォースの普通株1.103株で交換を行い、10月31日を期末とする同社の2019年第3四半期中には買収を完了させる予定だ。

画面1:Tableauのコーポレートブログの画面
拡大画像表示

 もっとも、セールスフォースは以前から買収をポートフォリオ拡充の中核とする戦略を取ってきた。"カスタマージャーニー"の継続的な改善をポリシーとして掲げる同社が、あらゆるBIツールの中でも最もモダンで多機能なTableauの獲得に動いたとしてもそれほど不自然ではない。

写真1:セールスフォースのマーク・ベニオフ氏は「双方の顧客にとってベストのマージだ」と語る

 セールスフォースの創業者にして会長・共同CEOであるマーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏(写真1)は、「世界でナンバー1のCRM企業である我々と、ナンバー1のアナリティクスプラットフォームのTableauが一緒になることは、双方の顧客にとって、まったくもってベストである」と今回の買収についてコメントしている。実際、セールスフォースとTableauはいずれもエンタープライズ(大規模)企業を数多く顧客として抱えており、両社のソリューションを導入済みの顧客も少なくない。両社の環境をより深く強く統合すれば、顧客のエクスペリエンスがより高まることは間違いないだろう。

 さらに付け加えるなら、セールスフォースが今回のTableau買収に踏み切った背景には、同社が2018年5月に65億ドル(約7050億円)で買収を完了したMuleSoftの存在が大きくかかわっていると思われる。

 セールスフォースは現在、同社の全製品をまたがった「Customer 360」というコンセプトを展開しているが、これはデータやアプリケーションがどこにあろうとも、ユーザーはそれを気にすることなく、一元的かつ直感的に顧客データを管理できる環境を提供するというものだ。

 例えば、ショッピングカートに商品が入ったまま何日間も放棄された状態を検知した場合に、自動でクーポンを発行して当該顧客に送付したり、あるいは担当営業に当該顧客の基へフォローに行くよう通知するといったアクションを、ユーザーは手元のダッシュボードから、アプリケーションやデータを何ら移動することなく、つまりバックエンドの処理をいっさい気にすることなく、スムースな一連の動作として実行できる。

 そしてMuleSoftは、ユーザーにとってストレスフリーなアプリケーション連携を実現するために重要な役割を果たす、豊富なコネクタとAPIライフサイクル管理機能を備え、クラウド/オンプレミスを問わずにアプリケーション間の連携を可能にする。現在、MuleSoftはCustomer 360のコアプラットフォームとして位置づけられており、「Service Cloud」や「Marketing Cloud」などセールスフォースの各種プラットフォームとの連携が進められている。

 MuleSoftによりデータやアプリケーションを統合して管理できる基盤が整えば、Customer 360が次に必要とするのは、集められた顧客データをより深く分析し、ビジネスに有益なインサイトをもたらすアナリティクスプラットフォームだ。セールスフォースはすでにAIプラットフォーム「Salesforce Einstein」を全製品にまたがるアナリティクス基盤として提供しているが、ここをさらに強化するためにTableauをEinsteinに統合していくことを選択した。

 MuleSoftを中心に構築されたデータ統合基盤を、Einstein+Tableauというアナリティクスプラットフォームで拡張していく──買収を重ね、自社製品に統合することで業容を拡大してきたセールスフォースのポートフォリオ戦略を考えれば、今回のTableau買収はある意味、同社にとっての"王道"の策とも言える。

●Next:セールスフォースが157億ドルの巨額を投じてでも得たいTableauの価値

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
関連キーワード

Tableau / BI / M&A / MuleSoft / Salesforce / Einstein

関連記事

トピックス

[Sponsored]

欲しかったのは「顧客を正しく見て理解する力」─Salesforce.comによるTableau買収の背景米Salesforce.comが米Tableau Software(タブロー)を買収──2019年6月10日(米国時間)に飛び込んできたこのニュースは、それぞれの分野でトップシェアを誇る企業同士のマージだけに、世界中のIT業界関係者を驚かせた。買収発表後、Tableauの株価は実に34.6%も上昇しており(セールスフォースは4.7%ダウン)、本ニュースの衝撃の大きさを物語っている。両社の戦略やこの分野の動向から、巨額買収の背景を探ってみたい。

PAGE TOP