農業機械をはじめ、食料/水/環境といった幅広い分野で事業をグローバル展開するクボタ。目下、同社が推進しているのがIT基盤のパブリッククラウドへの全面移行だ。業務効率化のみならず、事業高度化をも見据えた大変革が喫緊の課題であり、それに不可欠な基盤として選択したのが、Microsoft Azureである。プロジェクトを主導したキーパーソンに、選定の理由や今後の展望などについて話を伺った。
グローバルでのDX推進に向け、専任の組織を設置
1890年に創業したクボタは、農業や建設分野の産業機械をはじめ、水道用鉄管、産業用ディーゼルエンジンなどの開発製造を軸に、世界120カ国以上でビジネスを展開するグローバル企業だ。「食料・水・環境にまつわる様々な課題を解決することで地球と人の未来を支え続ける」ことを使命に掲げ、独自の技術力や製品・サービスを結集して世界市場に提供し続けている。
AIやIoTなど進化と普及に弾みが付くデジタルテクノロジーが産業界に新たな可能性をもたらしているのは周知の通りで、クボタもまた様々な取り組みを推し進めている。例えば、ITと農業の融合。農業の“見える化”で有効策を打ちやすくするKSAS(クボタスマートアグリシステム)の提供や、無人での作業を可能にする自動運転農機、農薬散布や農場監視を見据えた農業用ドローンの開発、気象情報をはじめ多くのデータを営農情報に連携させるといった試みが世間の注目を集める。
巷間言われるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、こうしたエッジの効いた分野にとかく焦点を当てがちだが、既存の業務への適用も含め、IT活用の巧拙は業務の生産性や品質といったものに大きく影響する。つまりは、激しさを増すグローバルでの市場競争に対峙する“企業の体幹”を鍛えるためにも、導入すべきテクノロジーを見極め、全体の足並みを揃え、潜在価値を最大限に享受していくためのイニシアチブが必要となってくる。
そのためにクボタが新たに組織したのがグローバルICT本部だ。古谷嘉三氏(グローバルICT本部 ICT企画部 企画グループ長 兼 新技術開発グループ長)は、「当部署に課されたミッションは4つあります。社内インフラを整備していくこと、自前主義から脱却し外部リソースの活用でサービスレベル/品質/スピード感を向上させていくこと、グローバルでの基幹システムの刷新をはじめとした大規模プロジェクトを推進すること、そして、これらの施策の展開による投資対効果を向上することです」と説明する。
生産性向上と事業競争力強化を目指し
クラウドファーストに大きく舵を切る
これらのミッションに加え、グローバルICT本部設立の目的に掲げられているのが、最先端のITを活用した働き方改革による生産性向上、そして、事業競争力の強化だ。「その重要施策の1つが、クラウド化でした」(古谷氏)。
クボタでは2015年前後から、グローバルでパブリッククラウドサービスの利用に対するニーズが高まったことを受け、全社におけるクラウドサービスの利用方針を策定。以前はパブリッククラウドサービスについてはSaaSのみ利用可としつつも、明確なクラウド利用方針が存在しなかった。そこで、クラウドの適用領域や必要なセキュリティ対策について議論を重ね、ガイドラインを定めるとともに、利用に際してはIT部門へ申請、審議を条件とする体制を整えたのだ。
齋藤敦彦氏(グローバルICT本部 ICT企画部 企画グループ)は、「社内で策定したセキュリティ基準を満たしていれば利用を許可するという、基本ルールを定めました。具体的には、情報の重要度に合わせた暗号化の実施や、第三者によるセキュリティ脆弱性検査の実施、といった対策を行うことを規定しています」と説明する。
そうしたパブリッククラウドの有効活用を徐々に進めていく中、農機・建機IoTサービスを筆頭とする事業の高度化のためには、さらなるインフラ整備・強化が必要であることが見えてきたのに加え、災害対策や事業継続性への配慮、日本や北米エリアにおけるオンプレミスサービス依存からの脱却といったことを加味した結果として、クボタはグローバル共通の施策として「クラウドファースト」へと本格的に舵を切っていくことを決定した。
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充実したPaaS機能と堅牢なセキュリティ、
高いサポート力を評価しMicrosoft Azureを採用
「サービスの充実度/実績/コストや納期といった観点でクラウド利用効果を最大限に享受できるか否か」「セキュリティ/法令・コンプライアンスなどリスク対策は万全か否か」「海外拠点の課題・要請に応えられるか否か」──。新たなIT基盤となるパブリッククラウドを選定するにあたり、同社が重要視した主な要件だ。
これらに基づき、クボタはクラウドベンダーの選定に着手する。「数社のクラウドサービスが候補に挙がりました。高度な農業IoTを具現化するにはPaaS機能の充実度が見逃せませんでしたし、一口にセキュリティと言っても検討材料は多岐にわたったのでメンバー一同、侃々諤々の日々でした」と古谷氏。
後半で2社に絞り込んで詳細に比較検討した結果、同社が最終的に選択したのがMicrosoft Azureだった。実用的なPaaS機能の豊富さ、全方位での強固なセキュリティに加え、社内理解の促進に向けたサポート体制や使い手の目線に合わせた営業力などのバランスがとれていたことが評価につながったという。
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「マイクロソフトは世界中からのサイバー攻撃に日々対処している企業です。セキュリティ対策に関して持っている経験や知見は膨大で、我々1社でできることとは比べものになりません。また、長期的なパートナーと考えた場合、サポート体制や営業の提案力も重要なファクターですが、マイクロソフトはそれらに秀でており、安心感がありました。それらを総合して結論を下しました」と古谷氏は振り返る。