今や我々の生活の至るところでITが活用されているが、期待したほどに活用が進まず、時に大変な不便を強いられる分野がある。政府や自治体が進める「電子行政」がその1つ。そんなわけで2020年最初の是正勧告である。
パスポートの有効期限が来る前に更新しておこうと、パスポート発行センターに出向いた。申請書を書いていて、ふと戸籍を田舎から現住所に移したことを思い出した。いちいち田舎の役所に電話したり、郵送してもらったりする不便を解消するために移したのだが、本籍を変えたらパスポートの申請に戸籍抄本が必要になる。数年前から、戸籍抄本などの証明書がコンビニで受けられるようになったと総務省も宣伝していた。便利になったものだと近くのコンビニに出向いた。
主なコンビニでは複合機/コピー機がネットワークに接続されていて、マイナンバーカードがあれば住民票や納税証明や戸籍証明などを発行できる。で、早速やってみた。操作の手順で都道府県、市区町村を指定するようになっている。移した本籍の東京都を指定すると、その先には「墨田区」しか表示されない。スマホで当該区を調べると住民票や納税証明は対応しているが、なんと戸籍証明は窓口発行になっているではないか! 東京23区ではまだ墨田区しか対応していないということなのか!
コンビニからの申請を断念して、住まいの近くで住民票などを発行できる区民センターに行ったら、戸籍証明は区の総合事務所でないと発行できないという。しかたなく電車で3つ先にある総合事務所に出向き、申請書を書き、待たされた後に料金を支払って、やっと発行してもらった……。
せっかくのマイナンバーも活かされない縦割り行政
パスポート発行センターには、申請に必要な証明写真の撮影サービスがある。ここに各種証明の発行端末を置いておけば、マイナンバーカード1つを持っていけば事が済むはずだ。いや、そもそもマイナンバーカードで本人確認ができるのだから、本籍が変わっても戸籍抄本を添付する必要なしに処理できてしかるべきだ。
ところが、いまだに法務省が戸籍抄本の提出を求めているから、外務省所管のパスポートと連携ができていない。縦割り行政のためにペーパーレスはできていない。何のためのマイナンバー制度なのか? 何のためのID管理なのか?──改めて呆れてしまった。
マイナンバー制度は2013年に閣議決定される以前から“個人背番号制”だなどと批判され、一部の弁護士たちが強烈に反対していた国民ID制度である。当初から国民の安全安心を守り無駄な国民負担や無駄な国費をなくす国民ID制度としてデザインされていればこんなことはなかっただろう。制度運用が始まってすでに4年、マイナンバーカードの発行率はいまだに15%だというのも当然だ。
政府は少しずつ用途拡大を進めるようだが、縦割り行政の中で手探り状態の印象が否めない。電子的な処理をしようとすれば、個人番号だけではどうにもならず、カードからの個人情報の読み取りが必須になる。その下地さえできていないのは、国民サービスの総合カードとして設計されていないことにある。その元凶は中央省庁ばかりでなく自治体も含めた行政の縦割りだ。
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●Next:日本の電子行政サービスの根本的な欠陥
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