[インタビュー]
全社業務活動をアジャイルに─イノベーティブな組織へのシフトで加速するアフラックのDX
2020年12月9日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)
“ひとりひとりの人生をサポートする”という商品特性から、きめ細やかな対面営業が重視されてきた生命保険業界。保険証券や契約書類など長年の紙文化もあって、IT化が立ち後れた経緯がある。そうした中、中期経営戦略の中でデジタルイノベーションの活用を掲げて各種施策に取り組むのが、米保険大手Aflacの日本法人、アフラック生命保険だ。情報系システムの整備刷新で土台を作り、全社業務活動のアジャイル化で同社のDXを推し進めるリーダー、上席常務執行役員 CIOの二見通氏に話を聞いた。
保険・生保業界のIT化はなぜ立ち後れたのか
──二見さんは、アフラック以前にも複数の生命保険会社でCIOを務めてこられました。保険/生保業界のIT化の歴史におけるポイントを振り返っていただけますか。
まず、1990年代にモバイル活用の動きがありましたね。ノートPCを活用した営業支援システムをどう構築し活用するかという取り組みです。外資系生保が早期に取り入れ、その後国内の大手生保でも営業職員がノートPCやタブレットを携行し、お客様の前で設計書を見せて契約まで進めるスタイルが定着しました。
コールセンターの設置が始まったのもこの頃です。今、コールセンターやコンタクトセンターの活用は常識ですが、当時の生保業界ではそう多くありませんでした。私はその当時AIGグループの生命保険会社に在職しており、コールセンター構築に関与することができました。業界の中でも取り組みが始まったばかりの頃だったと思います。
それから、グループウェアです。「Lotus Notes」に代表されるグループウェアで掲示板を作成したり、簡単な社内ワークフローを構築したり、社内情報共有のためのいくつかのシステムも流行りました。また、契約書類などをスキャンしてデータ化する際、それをセンターで集中してやるのか、拠点ごとに分散で行うのかといった、集中か分散かなどの議論は数年ごとに繰り返されていたような記憶があります。
2000年代になると、当時は「eビジネス」などと呼ばれていましたが、より本格的なIT化の機運が高まります。インターネット技術の進展で、イントラネットやエクストラネットが国内企業の間でも広がっていきました。その頃、私もおそらく業界では初めてWebベースのイントラネットを構築したことに加え、保険代理店向けのWebサイトも立ち上げて、ビジネスモデルとして特許を取得しました。
同じ頃、ASP(Application Service Provider)が登場しています。自社でアプリケーションを持たない、今のクラウドのはしりですね。SFA(Sales Force Automation:営業支援)が盛んに言われていた時期で、日本でも後のSalesforce.comに代表される、SFA/CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)のSaaSにつながっていきました。
データマネジメント系では、これも欧米発ですがデータウェアハウス(DWH)のブームが訪れていました。保険業界で言えば、例えば医療保険に加入しているお客様にがん保険を勧めることなど、マーケティング/セールスに活用されました。One to Oneマーケティングの手法も進化していった時代です。私は当時からそうしたアプローチにとても興味があって、世界の中で新しい技術、ソリューションが生まれると、どうにかしてそれらを保険のビジネスにも適用できないかということをずっと考えていました。
2000年代の後半になって、今では当たり前のスマートフォンが登場します。それまでモバイル端末と言えば業務用のタブレットがメインでしたが、またたく間にスマホの世界になっていきました。当時発売されたばかりのiPhoneと音声認識システムを組み合わせて、音声入力だけでiPhoneからメールを送信できるシステムをベンチャー企業と一緒に開発しました。なぜそんなシステムを作ったかというと、当時の保険募集人は年配の女性が多く、「スマホからメールを送ってください」と言っても文字入力が難しかったからです。導入されたシステムはなかなかの評判でした。
──生保業界で先陣を切って、海外発の先進的なシステムを積極的に取り入れてきたのですね。
長年この業界に携わってきましたが、金融業界の中で生保業界は、銀行、証券と比べるとITへの取り組みが遅れていた印象があります。背景として、お客様との接点、接触機会が他の業種より限られていて、ITを駆使する場面も少なかったことが挙げられます。例えば、証券なら日々の売り買いがあって、銀行なら最低月1回の給与振り込みがある。損保の自動車保険も定期的な更新があります。一方、生保の場合は契約のお申し込み後、病気や入院などで保険金をご請求されるまで、お客様はご自身が加入されている生命保険を意識することはなかなかありません。お客様との接点が少ないという特性がITへの取り組みを遅れさせた1つの要因かもしれません。
“顧客と会いにくい時代”に何をなすべきか──DXに着手した背景
──さまざまな取り組みの歴史があって、現在はデジタルトランスフォーメーション戦略「DX@Aflac」を打ち出しています。本格的な始動は2018年とのことですが、アフラックがDXに取り組むにあたっての背景を聞かせてください。
ここ数年で、生保の営業スタイルに、大きな変化が求められるようになりました。まず、お客様に直接お会いする機会が以前よりぐんと少なくなっています。昔は“保険営業職員”が職場に頻繁に訪れるような光景が見られましたが、今はセキュリティ上の問題もあり、オフィスに立ち入ることがままなりません。お客様も、保険に興味を持ったとしても「じゃあ、家に来てください」とはなかなかならず、せいぜい喫茶店やファミレスなどでお会いできる程度で、じっくりとお話をする時間もない。要は、非対面で何とかしなければいけないことが増えてきたわけです。
また、営業活動に伴う移動に関する課題もあります。保険営業は、地方に行けば行くほど営業活動、移動に時間がかかります。都内なら公共交通機関がくまなくありますが、地方では基本、自動車で移動しなければなりません。よって、営業の皆さんのこの移動時間も、営業の効率化を目指すうえでは解決したい課題の1つです。
そして、近年のデジタル技術の進展がもたらした人々の生活の変化は見逃せません。今ではだれもがスマホを使っています。こうしたさまざまな環境変化が、生命保険事業におけるお客様サービス、代理店サービス、営業、マーケティング、バックオフィス業務に対しても変化を求めています。そこで、我々はどう変わっていくべきなのか──それがDXの出発点になっています。
──営業は特に大手生保はベテラン募集人の経験に因るところがかなり大きいと想像します。アフラックが掲げたDXには、そういった方の働き方までトランスフォームするような方向性はあるのですか。
アフラックは代理店営業が中心ですが、そうした代理店のベテラン募集人たちのノウハウやその他ベストプラクティスを代理店募集人の中で共有することは重要と考えています。それは生命保険会社の永遠のテーマとも言えますが。そこで、これまでのようなグループウェアを使ったナレッジ共有だけではなく、AIを使ったらどうなるかという発想が、今回のDXの取り組みにも含まれています。
独身の方、小さいお子様のいる方、年配の方など、保険のお客様は実にさまざまです。お客様によってニーズも変わり、セールストークも変わってきます。ベテラン保険募集人の会話や電話通話記録などの膨大なデータを分析し、どんなお客様とどんな場面でどんな会話をしたらよいのか?をAIに学習させて、経験の浅い保険募集人に対してAIが適切な会話のガイダンスをする、そんな仕組みの開発を先日終えたところです。
●Next:二見氏が「ITロードマップ」で描いたアフラックの「将来あるべきITシステム像」
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