富士通研究所は2021年1月21日、顔情報で照合対象者を絞り込んだ上で、手のひら静脈で本人を特定する“マルチ生体認証”の技術を高めたと発表した。新たに、マスクを着用していてもマスクを着用していない場合と同等レベルの99%以上の精度で本人を特定できる認証技術を開発した。さらに、手のひら静脈認証センサーにおいても、認証に適した高さに手のひらの位置をスムーズに調整できるようユーザーインタフェースを改善した。
富士通研究所のマルチ生体認証は、顔認証と手のひら静脈認証を組み合わせた認証方式である。手ぶら認証のように、ユーザーIDを申告せずに生体情報だけで認証を受けるケースに適する。イベント会場や全国チェーンのコンビニエンスストアのように、百万人規模の登録者から本人を特定しなければならないケースにおいても、手ぶらで認証できるとしている。
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例えば、100万人の登録者から本人を特定する場合、マルチ生体認証の前段に位置する顔認証のプロセスで、100万人を1万人に絞り込む。この上で、マルチ生体認証の後段に位置する手のひら静脈認証のプロセスで、1万人から1人を特定する(図1)。2つの生体認証を組み合わせることで、1つの生体認証だけで本人を特定する場合と比べて、処理にかかる時間を減らせる。他人を誤って本人であると受け入れてしまう他人受入率も減らせられる。
今回、富士通研究所は、マルチ生体認証の要素技術である顔認証と手のひら静脈認証の2つを強化した。
マスク着用像を生成して学習、マスク着用時の認証精度を向上
1つ目として、顔認証を強化し、マスク着用時の認証精度を高めた。マスクを着用していても、マスクを着用していない場合と同等レベルの99%以上の精度で本人を特定できるようになった、としている。
仕組みを説明している。従来の技術では、マスクで隠れていない目領域だけで特徴量を抽出していた。目領域以外の特徴を活用できていなかった。これに対して新技術では、登録した顔情報を基に、マスクを着けている時の画像をシミュレーションして生成し、こうして生成したマスク着用時の顔画像を学習させる。結果として、目領域以外の顔の特徴も要素も反映されることになる。
光の色で手のひら静脈センサーへの手かざしをナビゲート
2つ目として、手のひら静脈認証デバイスのUIを改善し、手のひらの位置を認証に適した高さにスムーズに調整できるようにした(写真1)。手のひらが遠い場合は青色、手のひらの高さがちょうどよい場合は緑色、手のひらを近づけ過ぎている場合は赤色で発光し、位置をリアルタイムにナビゲートする。デバイスの側面と上面が光る。上面には手形を表示して位置と形状を指示する。
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これら2つの改善点(マスク着用時の認証精度の向上と、手のひら静脈認証のユーザーインタフェース)は、富士通が2020年2月から実施しているマルチ生体認証の実証実験から得られた課題である。マスクを着用していると本人であると認証されにくい場合があった。手のひら静脈静脈デバイスへの手のひらのかざし方にコツが必要で、時間がかかる場合があった。
実証実験は、富士通の事業所「富士通新川崎テクノロジースクエア」(所在地:川崎市)内にある実験店舗「ローソン富士通新川崎TS レジレス店」で実施している(関連記事:富士通、事業所内にローソンレジなし実験店舗をオープン、カメラで商品を判別し退店時に自動決済)。
2021年1月21日付で、富士通新川崎テクノロジースクエアの実験店舗において、新技術の実証実験を開始する。