矢野経済研究所は2021年4月27日、国内の人事・総務関連業務アウトソーシング市場の調査結果を発表した。2019年度の人事・総務関連業務アウトソーシング市場は、各社の働き方改革やデジタルトランスフォーメーションの推進から、前年度比4.1%増と数年続くプラス成長を確保する。一方、2020年度はコロナ禍の影響が本格化して7.7%減を予測している。
矢野経済研究所の発表によると、2019年度の人事・総務関連業務のアウトソーシング市場規模(主要14分野計)は、前年度比4.1%増の8兆6542億円だった(図1)。2019年度は、2020年初に発生したコロナ禍によるマイナス影響が懸念されたが、コロナ禍をきっかけに間接業務の外注化に踏み切る動きが見られるなど、むしろマーケット拡大を後押しする追い風となったという。
拡大画像表示
市場の内訳として、シェアードサービス市場(シェアードサービスセンター、学校法人業務アウトソーシング)は、前年度比2.1%減の4165億円だった。
人事業務アウトソーシング市場(給与計算アウトソーシング、勤怠管理ASPサービス、企業向け研修サービス、採用アウトソーシング、アセスメントツール)は、前年度比3.2%増の9472億円だった。
総務業務アウトソーシング市場(従業員支援プログラム(EAP)、健診・健康支援サービス、福利 厚生アウトソーシング、オフィス向け従業員サービス)は、前年度比5.0%増の2777億円だった。
人材関連業務アウトソーシング市場(人材派遣、人材紹介、再就職支援)は、前年度比4.5%増の7兆128億円だった。人材関連業務アウトソーシング市場は、全体の約8割を占めている。
働き方改革を背景に勤怠管理ASPサービスが急成長
主要14分野別では、経済不安定期にサービス需要が拡大する「再就職支援市場」がプラス成長に転じた。また、シェアードサービスセンター、学校法人業務アウトソーシング、人材派遣の3分野を除いた11分野で、市場規模が拡大した。
特に、働き方改革を背景に時間管理を通じた生産性向上に欠かせない「勤怠管理ASPサービス市場」が、前年度比20%超のプラス成長となり、市場全体の拡大を牽引した。
人事・総務関連業務を外部委託するユーザー企業を取り巻く環境を見ると、人材確保難が顕在化して社内人材をコア(中核)業務に配置する流れが生まれていることなどから、間接業務である人事・総務系業務を外部委託する機運が高まった。これにより、アウトソーシング需要が拡大している。
特に大企業では、本業に対して経営資源を集中投下する一方で、間接業務の経費をより一層圧縮する方向にある。コスト削減を実現する手段として、アウトソーシングの活用に踏み切る企業が増えている。
働き方改革やデジタル変革の推進が、アウトソーシングの動きに拍車をかけている。業務システムの外部活用に加えて、人を介した業務に関しても外部委託し、間接業務を丸投げする動きが活発化している。
中堅・中小企業によるアウトソーシングも拡大
大企業をターゲットとしたサービス需要の取り込みが一巡した分野では、導入アプローチの矛先が中堅・中小企業にシフトしていると同社は指摘する。サービス導入先であるユーザー企業の裾野が広がっていることも、マーケット拡大の強力な追い風になっているという。
「中堅・中小企業のサービス需要は、安価に利用できるクラウドサービスの登場によって顕在化しており、市場を活性化する役割を果たしている。この流れは、今後も継続かつ広がっていくことから、市場拡大の牽引役として注目する必要がある」(矢野経済研究所)
「人事・総務関連業務アウトソーシング市場の外部環境は、マーケットにプラスに働く要因が多い状況にある。しかし、コロナ禍による経済活動の失速が中期的に懸念され、2020年度は前年度に比べてマイナス成長に転じるマーケットが増える見通しにあることから、市場に与える影響などを今後も注意深く見守っていく必要がある」(同社)